2022年11月11日より公開予定の『すずめの戸締まり』(監督 新海誠 配給 東宝)、これの小説版、新海誠著『小説 すずめの戸締まり』を読みました。
お話そのものは読んでいて楽しいドタバタロードムービーと言いますか、淡いラブコメ要素の入った『蟲師』と言いますか…。
イヤ、もっと深いテーマもあるのですが、読んで連想したキーワードを並べると以下のようになります。
少年マンガ的
災厄を防ぐために日本各地を廻り、「ミミズ」という地脈の歪みを常世(とこよ)に帰し後ろ戸を閉じる「閉じ師」。
蟲師、召喚師、魔術師、陰陽師、錬金術師…、〇〇師という設定はなんだか少年マンガ的なワクワク感ありますね。そういうタイプの新開作品は珍しいのではないかと思いました。
『星を追う子ども』
ただ、神話などが世界観の基盤になっている点や、親がいないという家庭環境に暮らすヒロインが、突如現れたミステリアスな男に大した理由もないのにノコノコ付いていくという基本ストーリーは…、私にはあの伝説の迷作『星を追う子ども』を彷彿とさせるものがありました。
破綻しかかったストーリー展開
なんだか似ていると思う部分も多かったです。あんまり書くとネタバレになりますので控えますが。
しかし…、『星を追う〜』は、いまいちフィット観のない宗教・文化・死生観だとかファンタジー要素だとかを目一杯詰め込んだ世界設定、主人公の明日菜はシュンを生き返らせたいが為に、命懸けでアガルタに踏み込んで行ったのかと思いきや、「寂しかったから」という凄まじい抽象的な理由だけであんなに銃を乱射しまくる森崎について行っていたという、動機が共感出来るような出来ないようなよくわからない破綻しかかったストーリー展開。
…物語の世界観は壮大で見応えはありながらも、これらが渾然一体となって一斉に不協和音を奏でる危うさ。これが観ていてクセになる。それが『星を追う子ども』の良いところだと思うのですが…。
東日本大震災
『すずめの戸締まり』が決定的に違う点は、そういうクセや危うさはない、世界観は真逆の高い完成度だと感じました。「無難にまとまりすぎ?」と思うほどに。
これは東日本大震災がテーマであるからでしょうか。
本作の設定の一つに、主人公の鈴芽は、東日本大震災に被災したために宮城から九州に移住した、というものがあります。
これに関しては、公式ホームページから注意喚起もあります。
岬のマヨイガ
私が読んだ児童小説で、同じく東日本大震災がテーマで印象に残っているのは『岬のマヨイガ』。
あの作品も、震災という災厄が示す大自然の力やそれに翻弄されつつも同じ世界の中で暮らす命の有り様を「アガメ」という魔物や河童などの妖怪通じて描き出し、主人公のひより達が勇気や命の意味を見出すまでを描いた名作。
『すずめの〜』も同様に、ロードムービーという形を借りながら鈴芽の命の深淵を辿り自分を取り戻す旅の物語。最後は各キャラクターと鈴芽の関係も綺麗に収まり(ややナゾが残る点もありましたが…)、そして草太とも。
円熟味や安定感
やっぱり「行ってきます」…、「行ってきます」というキーワードが印象的ですね…。あんまり詳しく言うとネタバレになりますが。
何だか円熟味や安定感を感じました。
『星を追う子ども』でやりたかった事はこういう事だったのか?という気もします。
新機軸な要素もあれば安定感もある。これが映像化されればどうなるのか興味深くもあります。
ご都合主義&ザ・たっち
ただ、ストーリー展開そのものは随分とご都合主義的です。
確信犯的にやっている感もあります。
とにかく強引な展開になると大体「えええ———!!」か、「ちょっと、ちょっとちょっと」という合いの手台詞で、『まぁいいか』という感じで全てまるく収まります。
あまりにも多いので、すべて書き出してみました。本作の雰囲気を感じてもらえれば幸いであります。
私が読んだのは電子書籍版なので、ページ数表記はありません
合いの手 | 記述箇所 |
---|---|
「えええええ!?」 | 6% |
「えーっ、ちょっとちょっとちょっと!?」 | 12% |
「え、ええええー!」 | 12% |
「え?えっ、ええ!?」 | 13% |
『ちょっと、ちょっと待たんね、鈴芽!』 | 15% |
「え、ちょっとちょっと、鈴芽?」 | 21% |
『ちょっと——ちょっとちょっと、鈴芽、あんた!』 | 25% |
「え?——ええっ!」 | 32% |
「え、ちょっとちょっと」 | 45% |
「え?え、おいちょっと、あんた!」 | 50% |
「え、ちょ、ちょっと」 | 54% |
「ちょ、ちょっと環さん」 | 67% |
「ちょ、ちょっと鈴芽、待たんね!」 | 68% |
「おいちょっと、鈴芽ちゃん!」 | 71% |
「ちよ、ちょっとまってよ稔くん!」 | 74% |
「え、ちょ、ちょっと…環さん?」 | 76% |
「ごめん、ちょっと!」 | 77% |
「ちょっとちょっとちょっと……!」 | 77% |
「ちょっとちょっとちょっと……!」 | 79% |
「ええ、ちょっとちょっとちょっと——!」 | 80% |
「え、ちょっと」 | 80% |
「ちょ、ちょっと、鈴芽!」 | 82% |
九九州の静かな港町で叔母と暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)。ある日の登校中、美しい青年とすれ違った鈴芽は、「扉を探してるんだ」という彼を追って山中の廃墟へと辿りつく。しかしそこにあったのは、崩壊から取り残されたようにぽつんと佇む古ぼけた白い扉だけ。何かに引を寄せられるように、鈴芽はその扉に手を伸ばずが…。過去と現在と未来を繋ぐ、鈴芽の戸籍まりの物語が始まる。新海誠監督が自ら執筆した原作小説!
本書カバーより