TV版が放映された際、過去放送されたジブリ作品の中で2番目に低い視聴率をたたき出したと聞いて、一体どんな作品なんだ?と思いながら見ましたが…。ストーリー的な物足りなさはあったのですが、キャラクターは魅力的で良い作品ではないかと思いました。
本作の概要
聖モーウォード子どもの家の孤児であるアーヤ。『なにかをこわいと思ったことなんて、一度もない。とっても強い子』であるアーヤが魔女のベラ・ヤーガに引きとられた事で巻き起こる珍騒動のお話。
原作は『ハウルの動く城』『大魔法使いクレストマンシー』などで有名なファンタジー文学作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズ氏。
『アーヤと魔女』はジョーンズ氏の生前最後の作品で、『「アーヤと魔女」の絵本に出合ったとき、こんないい企画はない』(公式ホームページ)と感じた宮崎駿氏によって映像化の企画がスタートしたのだとか。
スタジオジブリで「アーヤと魔女」という原作に最初に出会い、映像化の企画を考えたのは、宮﨑駿監督。しかし、すでに新作『君たちはどう生きるか』の準備に入っていたため、自身の制作は断念。白羽の矢が立ったのが宮崎吾朗監督だった。原作の面白さと、そのとき自身が考えていた現代の子どもたちのあり方から、監督を承諾。また、セルルック(手描きのセル画スタイルに見えるCGアニメーション)で制作した「山賊の娘ローニャ」を経て、次は3DCGに挑戦したいと思っていたさ中、本作は3DCGに向いているという予感もあり、制作に動き出した。
公式ホームページ「企画の成り立ち」より
ジブリ作品初の3ⅮCG作品として制作され、2020年12月30日にNHK総合テレビにて放映。その後劇場公開が決定。当初は2021年ゴールデンウィークに封切りの予定だったがコロナ禍のため公開延期。8月27日より全国で公開。
おおまかな感想
最初原作を読んだときは「なぜこのお話を映像化しようとしたのだろう…」というのが第一印象でした。
作者の死去による影響だろうと思いますが、さあ、これからいろいろお話が展開していくんだろうな~というところで物語が終わっている。最初に提示された「12人の魔女に追われている」というアーヤの出生に関わる、なかなか興味深い伏線も全く回収される事もなくナゾのまま。
「アレ、もう終わり?」というのが率直な感想だったのですが、その中で唯一印象に残ったのは主人公アーヤのこましゃくれたしたたかさ。
世界は全て自分の思い通りになると信じていて、到底そんな考えは通用しないような敵だらけの環境に追い込まれてもそれをものともせず、見事にまわりを自分のペースに従わせてしまう強者っぷり。
しかし、それは決して屈折したココロを持っているからではない、素直さゆえに世界を信じているという複雑な魅力を持っているアーヤという存在。
私は、そのたくましさ・したたかさを凄く「うらやましぃ~!」と思いながら読んだのですが、これこそが本書最大の魅力であり、映像化の大きな意義なのだと宮崎駿氏は言います。
…アーヤのへこたれない心。とことん戦うんだけど、キーキー、キャーキャー戦うのではなくて、この世をわたっていくときと同じでいろいろと柔軟に戦っていく。それが実にいいんです。
パンフレットより
ユーモアもちりばめてあって、ある意味ではひとつの家族がどうできるのかというところまで踏まえてある本だと思ったんですね。『ハウルの動く城』のときはいざ取りかかってみたら大変な目に遭いましたが(笑)、これは短くて、非常に辛辣だけれど負けないものがあって、アニメーションにできる可能性があるなと思いました
アニメーションにする可能性とは何か‥というと私には良くわからないのですが、アニメ版『アーヤと魔女』は、そのアーヤの魅力というものは見ていて良く分かりました。
CGは良かった。
予告編や宣伝ポスターの映像を見ていると、アーヤのデザインは頭身や顔のバランスがあんまり良くないようにも見えたので、そんなデザインで大丈夫だろうか?…という気もしていたのですが、いざ本編を見てみるとそんな事はなかった。
顔における眼の位置などのバランスが良くなってちょっと カワ(・∀・)イイ!! キャラになってる。
やはり、動いて喋っている姿を見ると説得力がありました。表情も生き生きとしていて、「そうか、アーヤはこういうキャラなのか…」と、その魅力に迫れた気になりました。
それが、この作品の重要な所でしょうか。原作を読んだ時に感じたアーヤの印象が、私の中で血肉になったような感もあります。
アーヤの出生の謎もオリジナル展開として一応解明されていて、ストーリーとしてまとまっている。
音楽は宮崎吾朗監督の趣味なのか、全編にイギリスのプログレッシブロックやグラムロックがふんだんに使われていて、魔女とロックというミスマッチがユニーク。
こういった遊び心のようなものは、制作者としての宮崎吾朗監督が本当に自分のやりたい事をしている、そんな雰囲気が感じられ全体としての完成度は高いと思いました。
しかし、やはり元は絶筆作品かつテレビ作品ですので、映画としてのストーリー展開の派手さやジブリ的な大作感という面では物足りなさを感じるかも。
…とはいえ、これまでのジブリ作品の伝統からはちょっと違うヒロインが主役を務める作品ですし、それを見るお子様には何か心に刺さるものがあるのではないか、肩ひじを張らずに気楽に見れるファミリー向け映画なのではないか。そんなことを感じる作品であります。
映画『アーヤと魔女』 | |
---|---|
監督 | 宮崎吾朗 |
原作 | ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 「アーヤと魔女」(田中薫子 訳 佐竹美保 絵 徳間書店 刊) |
脚本 | 丹羽圭子 郡司絵美 |
アニメーション演出 | タン・セリ |
キャラクター・舞台設定原案 | 佐竹美保 |
キャラクターデザイン | 近藤勝也 |
背景 | 武内裕季 |
音楽 | 武部聡志 |
出演 | 寺島しのぶ 豊川悦司 平澤宏々路 シェリナ・ムナフ 濱田岳 |
企画 | 宮崎駿 |
プロデューサー | 鈴木敏夫 |
アニメーション制作 | スタジオジブリ |
配給 | 東宝 |
上映時間 | 約1時間23分 |
本編上映時間 | 約1時間19分 |
クレジット上映時間 | 約4分 |
ポストクレジットシーン | 無し |