二作品同時公開された映画『僕が愛したすべての君へ』&『君を愛したひとりの僕へ』のレビューです。
これは、人々が少しだけ違う並行世界を行き来していることが実証された世界での、ふたつの物語。
同じ名前の主人公・暦と、彼と出会うふたりの少女。
別々だった世界が交差していたことに気づいたとき、隠された“本当の愛”がみえてくる——
パンフレット〝INTRODUCTION〟より
目次
大まかな感想
原作を読んでから鑑賞しました。
原作を読んで、テーマとして強烈に感じたのは「純愛」。
主人公 暦の愛に殉じる姿勢、愛がゆえに人生を左右されてしまう和音の悲しさ。クレイジーとも受け取れるような、様々な愛の形が現れるのですが、それが終劇の一点に集約されるその感動。
特に『僕が愛したすべての君へ』は、並行世界に居る自分と、この世界に居る自分は同じ人間と言えるのか、その人を愛するとはどういうことなのか、という自己意識や自我のテーマに踏み込んでいる。
考えさせられるテーマもあり、伏線がどんどん回収されていくタイムリープものや多世界ものの伝統的SF要素の面白さも堪能できる。
SFとしてそれほど高度で難解というわけではないので読みやすい。スゴく良い作品だと思いました。
ただ、映画版はそのあたりの要素がやや曖昧になっているようにも見えました。
原作の世界設定はそれほど難解ではないものの、「虚質空間」とか「虚質紋」「アインズヴァッハの海と泡」「オプショナル・シフト」「不可避の事象半径」などのかなり独自の設定用語が飛び交う世界観になっているので(作者の乙野四方字さんが最初に着想を得たのは『新世紀エヴァンゲリオン』の第12使徒レリエルの実体「虚数空間(ディラックの海)」からなのだとか)、これを100分程度の映画で完全に理解するのは難しいし、様々に張られた伏線も把握しづらいかも。さらに、二作品見ないと全容を理解できないというのも初めて見る人には印象が良くないかも知れないし…(¥1900×2!)、後述する作画面でのパワー不足とか、ちょっとネガティブな要素もいろいろ感じられるんですよね…。
二作品同時刊行といった原作のユニークさ、オンリーワン的な魅力を完全に表現する事のハードルの高さというものを感じてしまいました。
ただ、感動的な作品であるのは間違いないです。
概要
乙野四方字(おとのよもじ)さんの小説『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』が原作。
「虚質空間」という作品独自の設定で、『パラレル・シフト』によって並行世界を自由に移動できるようになった世界を舞台にした所謂パラレルワールドもの、多世界解釈ものSF作品。
『僕愛』『君愛』は主人公 暦が生きた同じ時間・場所の物語を、ふたつのパラレルワールドを舞台に描いた作品。
その特徴は、同じ場所・同じ主人公を描きながら、読む順番によって得られる読後感がまったく変わること。
「僕が愛したすべての君へ」から読めばちょっと切ない物語に、「君を愛したひとりの僕へ」から読めば幸せな物語に。
その仕掛けも含め、この小説はTikTokなどのSNSで話題となり、シリーズ累計40万部を突破するヒット作となった。
パンフレットより
このふたつの作品をふたつの制作会社が映像化。
『僕が愛したすべての君へ』をBAKKEN RECORDが制作。監督は松本淳さん(『閃光のナイトレイド』監督、『攻殻機動隊』演出など)。
『君を愛したひとりの僕へ』をトムス・エンタテインメントが制作。監督はカサヰケンイチさん(『ハチミツとクローバー』『わがまま☆フェアリー ミルモでポン!』監督など)。
脚本・観る順序について
『「僕が愛したすべての君へ」から読めばちょっと切ない物語に、「君を愛したひとりの僕へ」から読めば幸せな物語に』。
確かに『僕愛』はちょっと悲しい愛のお話で、『君愛』は狂気をはらむまでの愛が感動を呼ぶお話。ふたつの話が合わさって完結する物語なので、両作を観ないと完全には『僕君』の世界は理解できない。
ただ、ストーリー展開は明らかに『君を愛したひとりの僕へ』で張られた伏線やナゾが『僕が愛したすべての君へ』で回収され解明される構成になっているので、どう考えても『君を愛したひとりの僕へ』から先に見たほうが良いです。
作画・キャラクターデザインについて
作画は、映画作品としてはあまり良いとは思えず。
作画レベルが不安定で、人体の描写はちょっと大雑把。TVアニメでもあまり見ないような、身体のパーツを思いっきり省略した描写なども出てくる(瑠璃色なキャベツ的な)。ただし、最近の他のアニメ映画と比較すれば…、極端にレベルが低いわけではないと思います。
キャラクターデザインは、『君を愛したひとりの僕へ』はごくごく標準的なデザインで、『僕が愛したすべての君へ』はすこしエッジの利いた独創的な感じ(ヒイラギの葉っぱのような輪郭!)。キャラクター原案のshimanoさんの絵のテイストには『僕愛』のほうが近いかも。
声優さんの演技について
物語は70年余りという長い年月を描いているため、キャラクターによっては幼年期、青・壮年期、老年期と各年代で声優さんが違ったりします。
声の演技で出演しているのは、俳優の蒔田彩珠さん、橋本愛さん、宮沢氷魚さん、余貴美子さん、西岡徳馬さんなど。
橋本愛さん、余貴美子さん、西岡徳馬さんの演技は素晴らしかったです。
主人公 暦を演じた宮沢氷魚さんとヒロイン栞を演じた蒔田彩珠さんは…、私には一見棒読みにも聞こえる場面があったのですが…、初々しさや瑞々しさというものはキャラクターに良く合っていて、説得力は感じました。
声の演技の成功の可否というのは作画の表現力とかも関係するんですかね、私は映像や演技の専門家ではないのでなんとも言えませんが。
スタッフ・上映時間
映画『僕が愛したすべての君へ』 | |
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原作 | 乙野四方字 「僕が愛したすべての君へ」(ハヤカワ文庫刊) |
監督 | 松本 淳 |
脚本 | 坂口理子 |
キャラクター原案 | shimano |
キャラクターデザイン | 近藤圭一 佐々木里花 小宮山楓乃 |
メイン演出 | 工藤 進 萩原 健 |
作画監督 | 藤崎賢二 大前祐美子 柴田健児 |
美術監督 | 安田ゆかり |
音楽 | 大間々昴 |
企画・プロデュース | 石黒研三 |
アニメーション制作 | BAKKEN RECORD |
出演 | 高崎 暦:宮沢氷魚 (幼少期)田村睦心 (老年期)西岡徳馬 瀧川和音:橋本 愛 (老年期)余貴美子 佐藤 栞:蒔田彩珠 日高翔大:浜田賢二 佐藤紘子:水野美紀 高崎康人:西村知道 高崎里美:野路ももこ |
主題歌 | 「雲を恋う」 歌:須田影凪 |
配給 | 東映 |
上映時間 | 約1時間42分 |
本編上映時間 | 約1時間37分 |
クレジット時間 | 約5分 |
ポストクレジットシーン | 無し |
映画『君を愛したひとりの僕へ』 | |
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原作 | 乙野四方字 「君を愛したひとりの僕へ」(ハヤカワ文庫刊) |
監督 | カサヰケンイチ |
脚本 | 坂口理子 |
キャラクター原案 | shimano |
キャラクターデザイン | 町田真一 |
メイン演出 | 備前克彦 松永真彦 |
作画監督 | 高野ゆかり 小嶌エリナ 村田憲泰 |
美術監督 | 加藤靖忠 |
音楽 | 大間々昴 |
企画・プロデュース | 石黒研三 |
アニメーション制作 | トムス・エンタテインメント |
出演 | 日高 暦:宮沢氷魚 (幼少期)田村睦心 (老年期)西岡徳馬 佐藤 栞:蒔田彩珠 瀧川和音:橋本 愛 (老年期)余貴美子 日高翔大:浜田賢二 佐藤紘子:水野美紀 高崎康人:西村知道 高崎里美:野路ももこ |
主題歌 | 「紫苑」 歌:Saucy Dog |
配給 | 東映 |
上映時間 | 約1時間38分 |
本編上映時間 | 約1時間29分 |
クレジット時間 | 約5分 |
ポストクレジットシーン | 有り 約4分 |