おおまかな感想
『チンプイ』
普通の小学生の女の子・春日エリは地球から35光年離れたマール星の王子・ルルロフ殿下のお妃に突然選ばれる。エリはクラスメートの内木に心惹かれていることもあって必死に結婚を拒否するが、マール星からエリを説得するためにやってきたマール星人のチンプイはエリのことが気に入り、家に居候として住み着く。マール星は高度に科学が発達した星で、科法(かほう)と呼ばれる、魔法のような不思議な力を使うことができる。一方でマール星からはさらにエリを説得するため、エリのファンなどで変な宇宙人がエリのもとにやってきて騒動を起こすようになる。
Wikipedia「あらすじ」より
O((=゜ェ゜=))o ((=゚Д゚=)ノ
『ドラえもん』と『チンプイ』は結構似ていると思いました。
それは、ギャグ漫画でありながらSF漫画でもある点。
すなわち、決まった未来に向かってお話が進む演繹的なタイムパラドックス展開。
『ドラえもん』は「のび太としずかちゃんとの結婚」という未来が決まっていて、『チンプイ』もまた異星人のプリンスとの結婚という未来に向かって進む。
主人公のエリちゃんはどう変化していくのか、決まったゴールに向かってどう辻褄が合わされていくのか、このSFチックなストーリー展開、さらに「科法」というひみつ道具的アイテムが出てくる点も『ドラえもん』と似ているなぁと思います。
違いがあるとすれば、それはフィアンセのルルロフ王子の正体が全くの謎だという事。
しずかちゃんが、約束された未来として完璧に理想化された女性として描かれていたのとは少し違う。
ルルロフ王子は一体何者なのか分からない、決まっていないからこそ「未来」なのだというテーマだとも言えるし、その正体を想像する謎解き的要素でもあり、お話の重要な伏線になっている。それ故に、物語の着地点がハッキリしている。
ルルロフ王子との仲が近づくにつれて、エリちゃんがリアルに未来を捉え始める。こういった一人の女の子の変化、成長を描いているのは『ドラえもん』をより発展させたような作品だと思います。
残念なのは物語中盤以降、終盤にかけてはストーリー全体としての大きな進展は無くなり、そのまま未完となって終わっている点。
お話を完結させるのを途中から断念せざるを得なかったのか、それとも書き下ろしでオチをつけると確定した上での展開だったのか…。
しかし、未完の作品とはいえ、F先生の最晩年の作という事から連想される「力の衰え」といった要素とは無縁の佳作。
エリちゃん・ワンダユウ・チンプイをはじめとしたキャラクター達。絵のタッチ。仕掛けの豊富なストーリー。どれをとっても生き生きとした、円熟の安定感があります。
やはり、F先生は児童向け漫画のジャンルこそが、最も力を発揮出来るホームグラウンドなのだなと感じます。
返す返すも未完で終わっているのが惜しい、結果的には流星が消える最後の輝きとなった作品、と思います。
本書の特徴
藤子・F・不二雄先生最後の連載作品『チンプイ』の大全集。
元々は1984年から週刊、隔週刊で中央公論社から刊行された藤子不二雄作品の全集「藤子不二雄ランド」の巻末連載作品として、1985年に連載開始されたもの。
1991年の藤子不二雄ランド最終巻にて連載終了。連載最終回では「単行本第5巻は書き下ろしの2話を加えて発行予定」というアナウンスがあったものの、その後5年間にわたり最終巻は刊行されず、作者死去により未完作品となってしまう。
この『藤子・F・不二雄大全集 チンプイ (1)・(2)』は藤子不二雄ランドに掲載された作品すべてをまとめたもの。
F先生最後の作品であり比較的近年のものでもあるため、この全集に初掲載されたエピソード、資料といった要素は無し。
ただ、藤子・F・不二雄大全集 チンプイ (1) 巻末には藤子不二雄ランドの編集長であった嶋中行雄氏のインタビューが掲載されており、『チンプイ』誕生の経緯、なぜ5巻は発刊されなかったのか、結末への展開をF先生はどう考えていたのかといった内容が収録されており、ファンにとっては貴重な証言となっている。
目次
藤子・F・不二雄大全集 チンプイ (1)
口絵(カラーイラスト)
エリさま、おめでとう
おもちゃもラーメンを食べる
エリさま、花のように
チンプイつかれはてる
御先祖は日本王?
科法使いエリさま
ワンダユウの陰謀
黄金伝説
ぬいぐるみにコンピューター
願いごとかなえ券
宇宙的超一流デザイナー
エリさまが家出をされた
立体映像の使い道
妃殿下の編み物
おそれながら健康診断
天才画家エリさま
どうにもこうにも……
ライバルかんげいします
歌っておどって影をふめ!
危険!タイムトラベル
パーピー・ハウス
ふしぎな温泉旅行
ウルトラギャル
パリのエリおばさま
エリさま 初レコーディング
ワンダユウの「約束固めライト」
海中撮影したけれど…
ステキな星に新築計画?
[巻末企画]
初出掲載リスト
特別資料室
解説 嶋中行雄