かつて最強の戦士団と呼ばれた「独角」の頭だったヴァンはツオル帝国に敗れ、岩塩鉱で奴隷として囚われていた。ある日、奇妙な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。それは、ツオル帝国への反乱を企てるアカファ王国がウイルスをその身に宿す山犬を用いて人為的に発生させた、感染すると死に至る病・黒狼熱(ミッツァル)だった。山犬に嚙まれるも一命を取り留めたヴァンは、身寄りのない少女ユナを救うことになる。
『鹿の王 ユナと約束の旅』公式ホームページ 「STORY」より
ミッツァルがツオルの国中で猛威を振るう中、ヴァンはユナと旅に出るが、その身に病への抗体を持つ者として、治療薬開発を阻止したいアカファ王国が放った暗殺者サエから命を狙われることになる。
一方、ミッツァルの治療法を研究する医師のホッサルも、治療薬を作るためにヴァンの血を求めて懸命に彼を探していた――。
映画『鹿の王 ユナと約束の旅』見ました。
印象に残ったのは、レイプ目状態のユナがかなり怖かったのと、ところどころ『もののけ姫』を彷彿とさせるようなシーンが出てきたこと。
監督は、若干25歳で『もののけ姫』のチーフ作画監督を務め、スタジオジブリ退社後はフリーとして今敏監督作品『東京ゴッドファーザーズ』や、新海誠監督作品『君の名は』で作画監督やキャラクターデザインを務めた安藤雅司さん。同じく、ジブリ出身の演出家宮地昌幸さんとの共同監督ですが、これが初監督作品なのだとか。
やはり作画のDNAに刻み込まれてしまっているのか、猪とか、山犬とか、「ピュイカ」というトナカイのような鹿が出て来ますが、全部『もののけ姫』に出てくる猪神さまとか犬神とかヤックルにそっくり。
無論、内容そのものが「もののけ姫」のテーマにそっくりというわけではないので、作品の評価そのものにはあまり関係ない事ですが。
原作は、上橋菜穂子さんによるファンタジー小説『鹿の王』。
知らなかった、『精霊の守り人』シリーズなどを書かれた方なのですね…。ファンタジー作家としての顔以外にも、文化人類学者としての肩書を持つ文学博士。すごい才人だ~…。
原作は途中まで、三巻の半ばまでしか読んでいないのですが、単行本は全部で四巻の長編。
作品世界の設定はかなり緻密に作られていて、国同士のパワーゲームや政治的な駆け引き等、読みごたえはバッチリ。
系統としては『風の谷のナウシカ』や、最近だと『クジラの子らは砂上に歌う』といった作品に近いでしょうか。全くのゼロから作り上げられた架空の世界の物語。
内容的には、パンデミックの到来を予見していたかのような黒狼熱(ミツツァル)という病の存在。それ利用したり戦おうとする人間のありようというものが、民族であったり国家という大きな勢力のパワーゲームの中で展開される。
このあたりの世界観の雰囲気に馴染んでいないとストーリーも飲み込みにくい。この長い物語を二時間程度の映画にまとめるとなれば、色々端折らないとならない部分もあるでしょうし、オリジナル展開になる部分もあるだろうし。きっちり原作の内容をわかりやすくまとめるのはかなり難しいのではないかと想像しつつ映画を見てきたのですが…。
映画の率直な感想としては、大体想像した通りでした。
お話は要点をつないで行く感じで原作とは少し違うオリジナル展開もある。端折ったり改造したりしているので原作と比べるとどうしてもストーリーの流れに勢いは無くなる。
ただ、主人公ヴァンとユナとの関係が軸となり、偉大な「鹿の王」ヴァンの人としての誇りが描かれる事が主題になっている映画に見えました。
堤真一さんによるヴァンの声の演技も、「寡黙なラオウ」といった風情の迫力で説得力ありです。
杏さん等俳優さんの声の演技も違和感なし。
作画も十分素晴らしい。あまり深く作画に関わってはいないようですが、小西健一さん(「ホーホケキョ となりの山田くん」「かぐや姫の物語」作画監督、「海獣の子供」キャラクターデザイン等)、吉田健一さん(「交響詩篇エウレカセブン」「地球外少年少女」キャラクターデザイン等)というビッグネームも制作に参加している。
やはり安藤雅司さんが監督となると、ジブリ人脈でスゴイ人がスタッフに入りますね。
トータルの完成度はソツがない。
ちょいとソツがなさすぎるのがウィークポイントのような気もしますが、「鹿の王」としての雰囲気や魅力を損なうものではなかった…と思います。