アニメ、漫画等印象的なシーンのセリフを紹介致します
折々のせりふ 2
『じゃりン子チエ』より
「ええ子やね」
「…ええ子ですわ」
はるき悦巳著『じゃりン子チエ』
大阪の下町でホルモン焼き屋を切り盛りするチエちゃんは小学5年生。父親のテツは無職でケンカとバクチに明け暮れ、母親のヨシ江は家出中。そんな逆境にもめげず、大人顔負けのたくましさで奮闘するチエちゃんと、個性的な登場人物たちが大騒動を巻き起こす!
地獄組ボス、ヤーさんのレイモンド飛田が始めたボクシングジムに乗り込み、ちゃっかりジムのコーチになったテツ。それを聞いたチエの友達で絵画が趣味のヒラメちゃんから、オッちゃんがボクシングをやっている姿を絵に描いてみたいと請われ、大ノリ気でモデルを引き受けたテツ。
ところが、普段から着ている腹巻きを脱いでボクサーパンツ一丁で6時間もの長時間ポーズをとらされたため、体が冷えひどい下痢になってテツは寝込んでしまう。
それを知り責任を感じたヒラメちゃんは、もうテツのお腹が痛くならないようにと、完成した絵のアッパーカットを決めるテツの姿に腹巻きを描き加えてテツにプレゼントしたのでした。
しかしテツは、本来腹巻きをしていても絵に描かなければいいものを、わざわざ腹巻きを脱いでお腹ピーピーになってまでモデルをやったのに、なぜ絵に腹巻きを描き加える必要があるのかとヒラメちゃんに突っ込んでしまう。
ヒラメちゃんの繊細な思いやりをまるっきり理解できないテツの無神経さにチエは大激怒。テツに、ヒラメちゃんに正式に許しを得るまで家に帰ってくるなと言いつけるのだった――。
上で紹介させていただいたのは、腹巻きだけではない、絵に込められたヒラメちゃんの優しさがわかった時のチエの母ヨシ江さんのセリフ。
絵の中の観客の中にはチエやヨシ江さん、お好み焼き屋のオッちゃんなど、身の回りの人々の姿が…。
それを知ったチエは、それまでテツに怒り心頭であったのがすっかり上機嫌に。それを見守っていたヨシ江さんがしみじみ言ったセリフなのであります。
「じゃりン子チエ」の作中には、この「ええ子や」というセリフは結構出てきます。その中でも、私はこのヨシ江さんがヒラメちゃんに対して言った「ええ子」がすごく情感のこもった情緒豊かな場面に見えるので、大変好きなシーンなのです。
ヒラメちゃんの示した思いやりというのは、小さなことかも知れない。しかし、些細な事ではあっても、読んでいる者の心をとても温かくしてくれる。キャラクターの感情の動きを繊細に追い、いい意味でウェットな浪花節的表現。そういう漫画作品って余り多くはないように思います。
やはり、「じゃりン子チエ」は名作。
大阪の下町を舞台に、実に漫画的で破天荒、そして魅力的なキャラクター達が織りなす人情喜劇として有名ですけれど、こういう感性も併せ持つ。且つ、人語を理解する猫の小鉄やアントニオJr.に代表される、人間社会を一歩引いた冷めた眼で俯瞰するような視点もある。
昭和的な雰囲気を舞台にした作品ですが繊細で多くの含意を合わせ持つ文学的浪花節。多面的で奥が深い。
…とか言いつつ、実は私『じゃりン子チエ』は全巻通しては読んでいないのであります。
しかし、これを機会に全巻読んでみるつもりです。
何といっても…、本作でのヒラメちゃんはドンくさいと言われたり鼻がないと言われたり、どちらかというとダメキャラの位置付け。しかしヒラメちゃんは一人ぼっちではない。『腹巻き』に代表される、こころが最後に勝つと訴える作品の、描き出される人のありようをもっと知りたいと思うのであります。