アニメ、漫画等印象的なシーンのセリフ・ことばを紹介致します
折々のせりふ 8
「宇宙戦艦ヤマト」より
『ヤルー!! 〝キス〟ダロウト〝ソノ先〟ダロウト』
「宇宙戦艦ヤマト」第16話『ビーメラ星地下牢の死刑囚!』より
ロボットではなく自分は人間であり、森雪とケッコンするのだと言い張るアナライザーの言った台詞。
昔のアニメは、全話を半年から一年のスパンで放送されることが多かったですよね。で、大抵その中盤あたりにはまるでスピンオフ作品のような、ストーリーの進行とは全く関係のない「中休み」のようなエピソードが挿入されていた。
代表的なのは「機動戦士ガンダム」の「ククルス・ドアンの島」や「時間よ止まれ」、「新世紀エヴァンゲリオン」のジェットアローンの回など。
先日、映画館で4Kリマスター版「宇宙戦艦ヤマト 劇場版」を見た関係で、子供の頃以来久々に初代ヤマトのテレビシリーズを全話見たのですが、ヤマトにも所謂「中休み回」的エピソードがあったのを知って驚きました。
子供の頃大ファンでテレビで見ていたというのに、完全に記憶から消えてました。
それが、第16話「ビーメラ星地下牢の死刑囚!」。
ちょっと変わっていると思うのは、これより前の第15話でドメル将軍がバラン星に赴任して、
さあこれから中盤最大のヤマ場であるドメル将軍とヤマトの死闘が描かれる、というところでどういうわけか、この後四話にわたって一話完結型のストーリー進行には特に影響のないエピソードが続きドメルとの対決も保留状態になるという、なんだか不思議な構成になっている。
話数 | サブタイトル | 備考 |
---|---|---|
15話 | 『必死の逃亡!!異次元のヤマト!!』 | ここでドメルがバラン星に着任 |
16話 | 『ビーメラ星地下牢の死刑囚!』 | |
17話 | 『突撃!!バラノドン特攻隊!』 | |
18話 | 『浮かぶ要塞島!たった二人の決死隊!!』 | |
19話 | 『宇宙の望郷!母の涙は我が涙』 | |
20話 | 『バラン星に太陽が落下する日!!』 | ここからドメルとヤマトの対決開始 |
しかし当然というか何というか、見ずに飛ばしてしまって良いかといえば全くそうではない。そこがスゴイところで、この中にはあの真田さんの半生、人となりが明らかになるという、シリーズ全体を通しても超重要エピソードである第18話「浮かぶ要塞島!たった二人の決死隊!!」や、宇宙放射線病が悪化した沖田艦長が佐渡先生の手術を受けるエピソード第17話「突撃!!バラノドン特攻隊!」などがある。
さらに、ドメル将軍の策略によってノイローゼになってしまった相原通信班長が、その真面目さゆえなのか地球へ帰ろうと思い詰め、宇宙服だけの着の身着のままでヤマトから逃亡、宇宙空間に飛び出すという強烈エピソード第19話「宇宙の望郷!母の涙は我が涙」等々、ヤマトファン垂涎の重要エピソードであったり、ヤマト全体のストーリーに若干関わってくるものがあったりする。
その意味で、その後の伏線にも殆どならず、自由奔放に作られているのがよく分かる唯一のエピソードがこのビーメラ星エピソードで、じつに興味深い内容でした。
「宇宙戦艦ヤマト」第16話『ビーメラ星地下牢の死刑囚!』
ヤマトの食堂にて、普段の制服とは違うドレス姿を披露する森雪。
他の乗組員たちは大喜び。
そこへ、いつものセクハラを披露するアナライザー。
他の乗組員たちはさらに大盛り上がり。
森雪は、このアナライザーのスカートめくり性癖は、電気的、機械的異常としか考えられない。直ちに修理してほしいと沖田艦長に直訴するものの、『べつに、そーゆーのは直さなくても…ゲフンゲフン』と、おそらく全シリーズ中唯一ではないかと思われる沖田艦長のお茶目ぶりで煙に巻かれてしまう。
一方、アナライザーは加藤や古代に、『自分は人間なのだから、やりたいことをやる』と言い切る。『じゃあ、森雪とキスは出来るか』と加藤に聞かれて、アナライザーが言い放ったのがこの台詞。
『ヤルー!! 〝キス〟ダロウト〝ソノ先〟ダロウト』
アナライザー
森雪と「その先」もヤルし、「結婚」もするとまでロボットであるアナライザーは言い出す。
さすがに古代も呆れて『自制もせずに、やりたいことをやるだけなのは人間ではない』『やっぱりお前はロボットだ』と言う。
ここは倫理や規範から人間とは何か、という事を述べているのでしょうが、これをうけてアナライザーが言った言葉もちょっと考えさせられる。
『ヤリタイコトヲ抑エテシマッタラ、ボクハ壊レテシマウ』
アナライザー
だから自分は森雪と結婚する。自分の感情を表現しないのが人間らしさか?と言っているようにも見える。
その直後、ヤマトは植生のある惑星、ビーメラ星を発見する
乗員の食料を採集出来るかもしれないため、生活班長である森雪はアナライザーと共にビーメラ星への調査を命じられる。
しかしビーメラ星は既に植民惑星としてガミラスの支配下にあり、ビーメラ星人から採取できるローヤルゼリーを精製したエキスを大量にガミラスに納めることをによって、ビーメラ人はガミラスから種族としての体制維持を保障されているのでした。
森雪とアナライザーは、このビーメラ星人に囚われてしまう。
このビーメラ星人は蜂か蟻がモチーフのようで、設定として社会性昆虫の特徴を持っているらしい。だから一人ひとりの生命の価値が非常に軽い。
ポイポイとミキサーに放り込まれ、断末魔とともにローヤルゼリーエキスにされるビーメラ星人たち。
それを見て、私達も殺されるんでしょうかね〜と、人ごとのようなアナライザー。それに対し「あなたは鉄クズになってそれで終わりかもしれないけれど、人間の命はそんな軽いものではない」と憤る森雪。
でも、それに反論するアナライザーはカッコ良かったのであります。
班長、アナタハ僕ヲソンナ風ニシカ見テナカッタンデスカ?
僕ガ死ヌノハ、タカガ鉄くずニ還ルダケノコトナンデスカ?
僕ニモ命ハアリマス。コノ命ハ人間ガ与エテクレタモノデス。
神様カラモラッタ命モ人間カラモラッタ命モ命ノ尊サニ変ワリハナイハズデスヨ。
僕ハ人間カラモラッタ命、コノ命デアナタヲ好キニナリマシタ。
僕ノ体ハ金属ダカラ、確カニアナタヨリハ丈夫ダ。
ソノ分ダケ僕ハ、アナタヲ守ッテ戦ッテ死ヌ。アナタヲ殺サセハシナイ。僕ノ命ハアナタニ捧ゲルノデス。
アナライザー
ロボットも人間も生命に違いはない。
愛する者のために自分は命を捨てるのだとアナライザーは言う。そう言われれば、「お前は立派な人間だ」と言いたくなるのも人情というもの。
アナライザーの人間的な男気に感動した森雪は、アナライザーに「あなたは人間よ、アナライザー」と、抱きしめるのでした。
しかし、ビーメラ星を治める女王を倒し、その後ろ盾であるガミラスからの独立を果たそうとする反女王の勢力との内紛に巻き込まれ、アナライザー達が危機的な状況に追い込まれたところで古代や加藤をはじめとする救助隊が現れる。
そこで森雪を守っていたアナライザーをほっぽり出し、古代に駆け寄る森雪。まるでディズニー映画のプリンスとプリンセスの熱い抱擁のごとく、再会を喜び合う二人。
あまりにも可哀想なのが、その横でビーメラ人にボコボコに殴られているアナライザー。その上、キズ一つ付かないために『バケモノだ!』とビビりまくられる有様。
ソウダ、僕ハ人間ジャナイ。ろぼっとダ。
アナライザー
ここで、アナライザーは自分と古代たちとの間にある深い断絶を自覚するのでありました。
ヤマトに帰還した後の森雪の態度を見ても、そこに変化が起こりそうにはない。
イインデスヨ。班長。
デモ僕ハ、ヤハリアナタガ好キデス。
アナライザー
人ヲ愛シテイケナイコトハナイデショウ?
感情のおもむくままに、夢に向かって生きたとしても、叶わぬこともある。古代の言う通り、人はそれを受け入れ、やりたいことを抑えつつも叶わぬ夢に希望を託さなくてはならない時もある。
その生き方を選んだアナライザーは、真に人間になったと言えるのではないでしょうか。
SFの世界でよくある、生命と機械の境界を探るというテーマの作品が私は好きで、印象に残っている作品も多いです。
初代の劇場版『スタートレック』は、機械化された異星人と地球人が融合して新たな生命体が誕生するお話ですし、漫画だと『攻殻機動隊』もネットの中に誕生した自称生命体〝人形使い〟が、真の生命となるために草薙素子とケッコンする話。『火の鳥復活編』のロボット、ロビタも自分は人間だと言うし、藤子・F・不二雄SF短編の中にもおもちゃのロボットが人間的な感情を獲得するという話がある。それと、楳図かずおさんの『わたしは慎吾』も有名ですね。
『2001年宇宙の旅』のHAL9000もある意味同じ系統のキャラクターかも知れない。
ただ、この「ビーメラ星地下牢の死刑囚!」はバリバリのハードSFというよりは、アナライザーの存在はなんだか『男はつらいよ』の寅さんみたいだし、サイエンスフィクション的テーマを自然主義的な文学で表現しているようなお話。
失うことで得られるものもある。
感情を押し殺し規範に沿って生きることが人間らしい生き方か、しかし、現実を受け入れ人として認められることを失ったかわりに真の人間性を獲得する、という展開はなんだか色々と考えさせられるものがあります。
残念なのは、この後のシリーズでのアナライザーは「森雪にお熱」のあたおかロボットという、完全にコメディリリーフ的なキャラクターに堕してしまっているのが何とも無念というか…。
やっぱりアナライザーはロボットなのでしょうか。
とはいえ、こういう地味に見えて深いお話がポンと入ってくる。
最近のアニメはワンクールの映像化で様子をみたり、それかツークールずつを間をあけて制作する、もしくは原作は完結しているにもかかわらず、ストーリーの節目ごとに分けて一年近く制作期間を設けて毎年ごとに放映したりする。そういう慎重なスケジュールで制作されるアニメと違い、行き当たりばったり、自由極まりない制作体制の昔のアニメもまた良いものですね。
記事中に触れた作品
スター・トレックⅠ
『攻殻機動隊』
『火の鳥 復活編』
『マイ・ロボット』
『わたしは慎吾』
引用画像はテレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』より