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2022年6月19日 0
アニメの感想, レビュー記事, 感想記事, 映画の感想, 映画レビュー, 漫画の感想

「ぷちっ」の衝撃 映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』レビュー

「ぷちっ」の衝撃 映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』レビュー
2022年6月19日 0
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公式ホームページより 2022年6月3日より全国公開

概要

79年に放映されたTVアニメ『機動戦士ガンダム』の伝説的エピソード第15話『ククルス・ドアンの島』。これが映画化される。
「エヴァンゲリオン」でいうならジェットアローンを主人公に一本映画を作るようなもの。そんな意欲的な企画を、キャラクターデザインを務め、ガンダムの生みの親の一人である安彦良和氏が監督として制作する…。
安彦氏によって、2001年より「ガンダムエース」誌上に連載されたリメイク『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』はつとに有名ですが、その中でも「ククルス・ドアンの島」エピソードはカットされている。ジオン公国誕生や、モビルスーツ開発、ジオン・ズム・ダイクンの人となり、シャアの母など、これまで謎だった一年戦争前夜の数々のミッシングリンクが明かされ、これらは「シャア・セイラ編」「開戦編」「ルウム編」としてアニメ化もなされてきたにもかかわらず。
安彦氏としては、アニメも終了し「俺のなかでの『ガンダム』は終わったな」(パンフレット)という意識があったそうですが、まだ『ククルス・ドアンの島』のエピソードが残されていたのを思い出したのが制作のきっかけだったのだとか。
それだけ「ククルス・ドアン」のテーマ性には秘めたるポテンシャルがあるということなのでしょうか。

おおまかな感想

その一

集英社刊 鳥山明 著『Dr.スランプ』文庫版7巻「悪夢!ガジラがふたり…の巻」より

その二

双葉社刊 はるき悦巳 著『じゃりン子チエ』【新訂版】16巻 第6話「周旋屋シャッター事件の巻 その②」より

その三

小学館刊 原作 石ノ森章太郎 漫画 シュガー佐藤・石森プロ・早瀬マサト 原作 小野寺丈 『サイボーグ009 完結編 conclusion GOD’S WAR』 5巻 より

一部、ギャグでもコメディでもない作品が含まれていますが…。

そういうシーンが出て来ました…。アムロがガンダムの足でジオン兵を意図的に「ぷちっ」と。

設定上の世界観は全く『THE ORIGIN』の作品世界。ホワイトベースが北米に降下した後にジャブローに向かい、その後オデッサ作戦のために大西洋→ジブラルタル海峡→ヨーロッパへと渡るというストーリー展開になっているので、ククルス・ドアンの島は太平洋上ではなく、大西洋カナリア諸島のアレグランサ島という設定になっている。

そのため、スレッガー中尉が出てくるしリュウは既に戦死していてこの作品には出てこない。『THE ORIGIN』のスピンオフ作品と見たほうがイイかも。

正直言いますとワタクシ『THE ORIGIN』は連載当時の「ガンダムエース」で読んでいただけで、ちゃんと全編通してじっくりとは読んでいませんでした。ですので、これを機に改めて『THE ORIGIN』の〝オデッサ編″までをちゃんと読み返してみました。

角川書店刊 安彦良和著『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』全24巻

やっぱり『THE ORIGIN』はスゴイですね…。ぱっと見は単純化されたような、余白を多く使う無駄を省いた水墨画のような絵柄、しかしキャラクターの肉感や存在感のリアリティ、表現力の凄まじさ。それに対して毒のないほのぼのとしたコメディシーンに何だか読んでいて気恥ずかしくなり…。

(『THE ORIGIN』9巻より) ドズル、激怒のメカニズム

所謂、宇宙世紀ガンダムのテーマといえる「人類の革新」というSF的要素とは一線を画すガンダム、というカンジにも見えるのですが…、しかしキャラクターの設定や描写・つじつま合わせなど、ミクロな視点でのリアリティには非常にこだわっている印象を受けます。

ここに安彦良和さんなりのリアリズムや歴史観、ヒューマニズムが見て取れ、これは何だか歴史小説のよう。司馬遼太郎作品のような『安彦史観』の一年戦争史だと考えれば、『THE ORIGIN』という作品は興味深い作品だと改めて気付かされたのであります。

考えてもみれば…、『虹色のトロツキー』『ナムジ』『イエス JESUS』『王道の狗』等々、安彦漫画作品は人間の文化や歴史、宗教といった観点に重きを置く文芸的表現。アニメや漫画的表現とはやや違うテイスト。

では、その『THE ORIGIN』でもカットされている、一年戦争史のラストピースとも言える『ククルス・ドアンの島』の映像化はどうなのかと言えば…。

やはり、私のような旧来からのファンには違和感を覚える部分もありますが…、しかし、娯楽作品としては面白かった。

ナゾのアレグランサ島にアムロ達が踏み込んでいくドキドキ感、登場する子供たちがTV版の4人から一気に20人の大所帯に増え、リアリティの増した生活描写。

ドアンとの戦闘に負け、アムロのガンダムはドアンによって何処かに隠されてしまうのですが、その謎とオデッサ作戦という大きな歴史の流れにうまく「ククルス・ドアンの島」のエピソードが組み込まれていて、映画らしい仕掛けにワクワクしました。

(16巻より)『THE ORIGIN』でのマ・クベは、TV版と違いオデッサ作戦終盤での水爆ミサイル攻撃は実行しなかったが(核爆弾での特攻は行なっていますが)、映画版『ククルス・ドアンの島』でその理由が明かされる構成になっている。

初代ガンダムの劇伴を使っていたり、ドアンザクをモデルとしたメカデザインを施したり、従来のガンダムファンを意識した演出もある。

『機動戦士ガンダム』第15話「ククルス・ドアンの島」より

映画らしいワクワク感、安彦作品らしいリアリティを追求する生活描写、ガンダムファンを意識した演出…。
これらの要素が合わさるバランスは見事で、映画としては大変良く出来ているのだろうなぁ、と思いました。

しかし、飛びぬけた要素はない。
例えば、すべてのガンダムを否定するかのようなあの『∀ガンダム』の如く、「世界名作劇場」を思わせるような思い切った生活描写の世界観の作品にするとか、そういう羽目の外し方をしないのが安彦史観とも言うべきものだと痛感しました。

冒頭で紹介した「ぷちっ」とシーンが象徴的だと思うのですが…。よぉ〜く考えればアムロの行動には合理的な理由があると思いますが、モビルスーツで人間を攻撃するのは非対称すぎてやっぱり見ていて抵抗がある。
アニメとかロボットものの様式美というかお約束として、どんなに内容がリアルであっても主人公は正義を体現する側にいて欲しい、というのが大体のアニメを見る人が持つ無意識の願望。
しかし安彦作品にはそれが無い。

そもそも初代ガンダムではアムロがジオン兵に向かって銃を撃ったために、

(『THE ORIGIN』4巻より)

それを見ていた母カマリア・レイに「すさんだねえ」とボロクソ言われ、映画冒頭ではそれがトラウマの悪夢となってアムロを苦しめるというシーンまで出てくるのに、

(『THE ORIGIN』8巻より)ORIGINにも似たようなシーンがありました。

あんな「ぷち」シーンを見たら、
『やっぱりすさんでるんじゃねーか!!!』
と、ツッコミたくなる。やっぱり妙な違和感を覚えるのであります。

それはドアンの描き方にも…。原作のククルス・ドアンが使う武器は岩石の投擲のみ。それでもガンダムやジオンの追跡部隊には負けないドアンの強さ。

そもそもドアンが離れ小島での島スタート生活をするようになったのは、自身の戦闘行為によって孤児を作ってしまった贖罪や、戦争に対する諦観という意味もあったはず。だからこそ兵器による殺傷を伴わない、ある種「非暴力」を貫くというドアンの強さが、最終的にアムロがザクという武器を放棄して「戦いの匂いを消し去る」という行動に出るテーマにつながる。
こういう戦い方もあるのではないか…。戦後日本の理想主義を体現しているという見方もできるような気も。

このアムロがドアンのザクを放棄するという重要テーマは映画版でも健在。しかし、ウクライナだ何だというご時世のせいもあるのか…。

アムロが過去の戦闘のトラウマに悩むシーンはこれの伏線かとも思うのですが…。映画版のドアンは『お前は石川五ェ門か!!!』とツッコみたくなるほどのヒートホークの使い手。ヒートホークで高機動型ザクだのガンキャノンだのジムだのをぶった切りまくり。

ぶった切られれば爆発する。爆発すれば搭乗しているパイロットは死ぬ。

安彦監督はインタビューで、「ククルス・ドアンの島」エピソードにベトナム戦争や「地獄の黙示録」のイメージを重ね合わせているという発言がありましたが、これもまた安彦史観というべきものでしょうか。

安易な希望や夢は入り込む余地がない。

ドアンのアムロへの態度も、原作では放任的だったのが、映画版ではむしろ無関心。進んでイニシアチブをとるわけでもなく、こういうドアンを見てアムロは何を感じ取ったのか、これもあまりハッキリとは描かれない。
さらにさらに、ドアンが養っている子供たちは総勢20名。これまたこの子供たちがどういういきさつでドアンと生活を共にするようになったかの経緯はハッキリとは描かれない。(大体想像はつくのですが)

原作の『ククルス・ドアンの島』ではある程度分かりやすかった設定や内容が、今作では不明瞭に見える。
そう言ってしまうと、そもそも映画化に適していなかったのかということになってしまいますが…。そう考えると、『THE ORIGIN』もしくは本作中でのマ・クベの台詞が、安彦作品としての映画『ククルス・ドアンの島』のスピリットという気もします。

(『THE ORIGIN』16巻より)

言い換えれば、

『ニュータイプだの人類の革新だのアニメの新時代だの、そんな理想なぞ私にとって、白磁の名品一個にも 値しない』

ということでしょうか。

あの安彦良和が「ククルス・ドアンの島」を映像化する、というインパクトはやっぱりファンにしか理解できないもの。

しかし、原作と比較してしまう前提で観るのも健全な楽しみ方とは言えないし…。なんとも難易度の高い映画なのではないかという気もしてきますが、娯楽作品としては、これは「良いもの」だと思います。

安彦良和監督の歴史観、文明観によるガンダムであり、『THE ORIGIN』本編の映像化は行わない事をサンライズは正式に決めているようですし、そうなればこれが安彦監督の「ガンダム」に対して決着をつける意義と主張が込められた作品なのだろうと思います。


映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』
企画・制作サンライズ
原作矢立肇
富野由悠季
監督安彦良和
脚本根本歳三
絵コンテ安彦良和
イム ガヒ
演出イム ガヒ
キャラクターデザイン安彦良和
田村篤
ことぶきつかさ
メカニカルデザイン大河原邦男
カトキハジメ
山根公利
総作画監督田村篤
美術監督金子雄司
音響監督藤野貞義
音楽服部隆之
製作バンダイナムコフィルムワークス
出演アムロ・レイ:古谷徹
ククルス・ドアン:武内俊輔
ブライト・ノア:成田剣
カイ・シデン:古川登志夫
セイラ・マス:藩めぐみ
マ・クベ:山崎たくみ
ゴップ:楠見尚己
主題歌「Ubugoe」
歌:森口博子
配給松竹ODS事業室

引用画像は
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』冒頭10分公開【6月3日(金)全国ロードショー】
「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」予告映像(60秒Ver.)
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』ロングPV より

ククルス・ドアンの島 安彦良和 機動戦士ガンダム 機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

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