藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿 に収録されている「カイケツ小池さん」の感想です。
4「カイケツ小池さん」の感想
1970年4月25日号ビッグコミックに掲載された作品。
常日頃から社会の不正への義憤にあふれつつも、それを正せない自らの非力を嘆く正義漢〝小池さん″に、ある日突然訪れた奇跡。その悲劇の物語のプロローグ。
『スーパーさん』に続くスーパーマンもの作品。こちらは掲載誌がビッグコミックだけに、内容は社会性が増して、絵柄もちょっとだけリアル寄りな印象。
「正義」の実現を意識しつつも、突然超人的な力を得た人間の混乱や騒動をコミカルに描くのは『スーパーさん』と同じですが、テーマ的に違うのは「正義」というもののあやふやさ、危険さが描かれている点。
常日頃から社会の不正に怒り、それを正せない自分の非力さを責める。自分の弱さをごまかすように正義感が肥大化していく小池さん。
こういうことは誰しもあることではないでしょうか。「社会が悪い」、「政治が悪い」、「時代が悪い」、というのはひょっとすると自分の弱さを隠しているだけなのかも知れないし、逆に言うとココロの安定を保つために必要なことかも知れない。
しかしそんな平凡、かつオサラバしたい日常をすべて覆し、自分の考える理想を実現させるほどの力をある日、前ぶれも無く突然得てしまった小池さん。
小池さんはどうなってしまうのか。
小池さんの力は本当に万能。
透視は出来る、空を飛べる、力は無限、自分の意志で他人の命をあやつる事もできる。
まさに『DEATH NOTE』の先駆け、元祖ではないですか!
この『カイケツ小池さん』では、その超能力に右往左往する小池さんがコミカル、かつブラックに描かれる。小池さんの考える正義が、どんどん自分を正当化することだけにすり替わっていく様は空恐ろしいものがあります。
この作品はそういった正義のあやふやさを暗示しながら、小市民的な小池さんの様子の面白さを描くところでやや尻切れトンボ的な終わり方をしている。ただ、この続編にあたる『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』では、この後の小池さんが自らの力を介して社会に対しどのように振舞ったかが事細かに描かれる。
『カイケツ小池さん』と『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』掲載の間には6年ものインターバルがあるので(『ウルトラ~』は1976年の作品)、最初から続編の執筆を前提にされていたのかは良くわかりませんが、『カイケツ~』で描き切れなかったテーマを『ウルトラ~』ではより深く表現されています。
何というか『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』と合わせて読むと、小池さんはどこで何を間違ったのだろうか、人間は非力なままが幸せなのか、正義とは何なのかといろいろ考えてしまいます。
『カイケツ小池さん』だけでは多少分かりづらさがあるのですが、『ウルトラ~』をふまえて読むと小池さんの変遷というものが良くわかる。そういう読み方がおすすめかと思います。
引用画像はすべて「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>」より
「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿」について
藤子・F・不二雄のSF短編112話を全8巻に完全収録した“PERFECT版”が登場! 鋭い風刺精神を存分に発揮した「藤子美学の世界」にどっぷり浸かれる作品集!
Amazon.co.jp商品説明より
藤子・F・不二雄氏による短編の総集編。第一巻は1968年の「少女コミック」9月号に掲載された『スーパーさん』から1973年「ビッグコミック」4月10日号に掲載された『イヤなイヤなイヤな奴』までを年代順に収録。
巻末には藤子・F・不二雄氏の長女である藤本匡美さんによるエッセイ「こっそり愛読した父の作品」が掲載されています。
タイトル | 雑誌名 | 年月号 |
---|---|---|
スーパーさん | 少女コミック | 1968年9月号 |
ミノタウロスの皿 | ビッグコミック | 1969年10月10日号 |
ぼくの口ボット | 子供の光 | 1970年1月号 |
カイケツ小池さん | ビッグコミック | 1970年4月25日号 |
ボノム=底ぬけさん= | ビッグコミック | 1970年10月10日号 |
ドジ田ドジ郎の幸運 | SFマガジン | 1970年11月 増刊号 |
じじぬき | ビッグコミック | 1970年12月25日号 |
ヒョンヒョロ | SFマガジン | 1971年10月 増刊号 |
自分会議 | SFマガジン | 1972年2月号 |
わが子・スーパーマン | ビッグコミック | 1972年3月10日号 |
気楽に殺ろうよ | ビッグコミック | 1972年5月10日号 |
アチタが見える | ビッグコミック | 1972年8月25日号 |
換身 | SFマガジン | 1972年9月 増刊号 |
劇画・オバQ | ビッグコミック | 1973年2月25日号 |
イヤなイヤなイヤな奴 | ビッグコミック | 1973年4月10日号 |