アニメ、漫画等印象的なシーンのセリフ・ことばを紹介致します
折々のせりふ 7
「葬送のフリーレン」より
『思い出していいんだ。フリーレン。』
「葬送のフリーレン」9巻 第81話『黄金郷』より
現在テレビで絶賛放送中『葬送のフリーレン』。
前々から、少年マンガとしてのセオリーを全てぶち壊すかのような作風にワクワクしながら読んでおりました。
魔王を倒した勇者の死後、魔法使いが歩む旅。
長生きなエルフの魔法使い・フリーレン。
弟子の魔法使い・フェルンと歩む旅の目的地は、再び魔王城。勇者たちの魂が眠るとされる地。この旅は、勇者たちとの冒険の足跡を辿ることでもあります。
道中、戦士の弟子・シュタルクとの出会いも――
物語は、追憶と共に新たな局面へと進む。英雄たちの“系譜”を紡ぐ後日譚ファンタジー!
Amazon 「葬送のフリーレン」2巻 商品説明より
いきなり、人類の脅威であった魔王が倒されたところから始まり、そのため魔王を倒した勇者一行の一人であるフリーレンには設定的に特に目的があるわけでもない。ストーリー序盤は物語の方向性を示すエピソードの連続ながらも、パッと見は何も起こっていないも同然に見える。
永遠に近い寿命を持つエルフが主人公というのも、狂言回しが主人公のようなもの。さらに魔法使いとしての戦闘力も超サイヤ人4レベル。言わば成長などの伸びしろがほとんど無いキャラクターがファンタジー系バトル物マンガの主人公になっている。
主人公の設定としては「ポーの一族」にちょっとだけ近いかもしれませんが、少年マンガの主人公としては異例だなぁと、ちょっとショッキングでした。
作画のアベツカサさんによる漫画も、淡々とした間で凄くあっさりした感じ。ジャンプ系マンガのようなギラギラした感覚はまるで無し。
色々感想を考えると、少年マンガのセオリーを無視しているような要素ばかりがアタマに浮かぶ。
でも、それ故に読んでいて引き込まれる。
作品世界の設定は凄く精密で、魔法の仕組み等、細部まで本当に丁寧に作り込まれているなぁと感じますし、人間の生の意味を探る、という非常に大きなテーマの作品でありながら、その焦点がぼやける事も無く自由自在に表現されているのもスゴイ。
特に好きなのは勇者ヒンメルの言葉。
その深い人生観は、慈愛にあふれております。
例えば、魔王を倒して50年後、魔王を倒した旅を振り返ってヒンメルが言った台詞。
「その美しい思い出の中にはいつも仲間達(きみたち)がいた」
「葬送のフリーレン」1巻 第1話『冒険の終わり』より
フリーレンはヒンメルに、旅立つ勇気と仲間と過ごす楽しさを教わったと言う。
勇気で彩られたヒンメルの生涯。
自分の人生を振り返り、美しいと言える生涯。
さらに、ヒンメルがフリーレンと初めて逢い、仲間にスカウトするために言った台詞。
「私は今の話をしている。」
「葬送のフリーレン」3巻 第27話『平凡な村の僧侶』より
そして追い打ちをかけるようにこの台詞。
「手を取れフリーレン。」
「葬送のフリーレン」4巻 第35話『旅立ちのきっかけ』より
「君が旅立つきっかけは、この僕だ。」
フリーレンは師匠フランメを亡くして数百年、無為に時を過ごしてしまい、魔族を倒す・魔王を倒す、という目標を失いかけていた時に言われた言葉。
人間に例えれば、夢を持って上京したけれども生活に追われ、気が付けば何年もの時が経ってしまったという感じでしょうか。
そんな時、自分の人生に疑念を抱くとき、重要なのは”今”だと、背中を押してくれる言葉やきっかけを、誰しもが心の奥底で願望しているのではないでしょうか。
それを言ってくれる、やってくれるのがヒンメル。
もう一つ印象に残っているのは、フリーレンがヒンメル達に花畑を出す魔法を披露したシーン。
この回想場面は1巻の第三話『蒼月草』で登場、その後単行本9巻の第八十一話『黄金郷』で再び回想場面として登場する。
この9巻から始まるのが「黄金郷のマハト」のエピソード。ストーリーを要約すると…。
大陸魔法協会の一級魔法使いレルネンからの依頼で、城塞都市ヴァイゼにやって来たフリーレン達。過去に大魔族、黄金郷のマハトの呪いによって黄金に変えられてしまい、今は魔法の大結界によって封印されている都市ヴァイゼの結界管理補助の依頼でしたが、管理者は「一級魔法使い試験編」で一緒になった宮廷魔法使いのデンケンだった。
ヴァイゼはデンケンの故郷。
デンケンは黄金となり変わり果てた故郷とともに、余生を過ごすつもりで管理者として、五十年ぶりにヴァイゼを訪れたのでした。
しかし、もはや思い出は残っていないと考えていた故郷は昔のまま、何も変わってはいなかった。
ここでデンケンは、愛する妻と過ごした日々を、幸せだった思い出が自分にとっての真実そのもの、自分自身そのものだった事に気付く。
デンケンは、ただ眺めるだけで余生を過ごすことになるとあきらめていた故郷を、
かつてフリーレンでさえ勝つことが出来なかった七崩賢マハトを倒すことで取り戻そうと決意する。
このデンケンの姿を見て、フリーレンはかつてのヒンメルの言葉を思い出す。
師匠であるフランメが最も愛した〝綺麗な花畑を出す魔法〟。死んでしまった師匠を思い出して悲しい思いをしたくないがために、ずっと封印していたこの魔法の経緯を知り、ヒンメルはフリーレンを諭す。
『思い出していいんだ。
「葬送のフリーレン」9巻 第81話『黄金郷』より
フリーレン。』
南こうせつさんの曲『神田川』に〝ただ、幸せを失うことが怖かった〟というような意味の歌詞がありますが、幸せはガラス細工のように繊細で壊れやすい、往々にして長くは保たないもの。
過去に過ぎ去った幸せを自らの思い出として記憶することは…、それは今現在の自分自身への踏み絵、自分を信じられるのかを問われているようなものではないでしょうか。
だからデンケンは、愛する妻を若くして亡くした故郷には戻らなかった。
ただ、このデンケンというキャラクターはどう見ても性格は悪そう。一緒に仕事はしたくないし、ましてや上司には絶対になってほしくないタイプ。
しかし人生に対する姿勢はとてもカッコイイ。
ヒンメルの言っていた『幸せを思い出して良い』とは、言うなればそれは人間の「証し」。
人は誰しも信じるに足る記憶を持っている。だから人生に遅すぎるということは無く、人はどんな時でも戦い、勝つことが出来る。人間は信じるに足る存在なのだと、デンケンのエピソードを見ていると強く思うのであります。
だから、フリーレンはデンケンの戦いの意味を理解し、協力することを決めるのでした。
人を信じ、己のイケメンぶりをも信じ続けた勇者ヒンメル。その幸も不幸もすべてを受け入れ、自分自身であり続ける勇気には学ぶところは大。
特に、デンケン程の年齢ではないにしても、私のようにおっさんの年代に入って長く経つと、ヒンメルの生き方は本当に心に刺さります。
この作品のテーマである「人間を知る旅」とは、ヒンメルの勇者たる所以を辿る旅でもある。この先どういうゴールへとつながるのか、楽しみであります。