アニメ、漫画等印象的なシーンのセリフ・ことばを紹介致します
折々のせりふ 6
映画「窓ぎわのトットちゃん」
「映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック」より
講談社刊 「映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック」より
『いや、いや、いや。わしの霊魂は旦那様のものではねえだ。買わしゃりはしねえだ、買わしゃるわけにはいけねえだ。』
映画「窓ぎわのトットちゃん」
昭和の大ベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」の、初のアニメ映画化。
お台場の映画館にて鑑賞しましたが、平日朝イチの回であった為か観客は私ひとり。
何だか気を使いましたが…、別に「窓ぎわのトットちゃん」が不人気というわけではなく、平日の午前となるとお台場には遊びに来る人はあんまり居ませんね。
それはともかく、映画は…。
作画はとても美しかった。原作にあるプールのシーンなどはカットするのかと思っていましたが、ちゃんと映像化されていてビックリ。このプールの場面が、作中ではもっとも美しいシーンに作画されていてさらにビックリ。
ただ私としては、原作はいわさきちひろさんの挿絵が有名なだけに、そういうアート的に攻めた作画の演出をもっともっとしてほしかった気もしましたが…。やはり原作は大ベストセラーであり、テーマ的にも教育や戦争というものを含む内容なだけに、多くの人に受け入れられるアレンジがされていると感じました。
原作は、何といってもトモエ学園の校長である教育者小林宗作氏の信念と、自由奔放、天真爛漫なトットちゃんの個性との絡み合いが魅力。
小林先生は生徒の個性と人格を最大限に尊重し、トットちゃんをはじめとする生徒はそんな小林先生を最大限に信頼する、その信じあい、分かり合う絆の世界がとても美しかった。
しかし、その分かり合う世界が、それとは全く逆の、不和と憎しみの世界である「戦争」によって崩壊させられるという、同じ人間の営為が見せる二面性が衝撃的でもありました。
ただ、原作はトモエ学園での出来事をいくつもの短いエピソードでエッセイ風にまとめられたものなので、特にストーリーに目的とか方向性というものは無い。あくまで原作は小林先生という不世出の教育者のユニークさや凄さ、それと戦争という不条理の表現がメイン。
そのため、映画版では小林先生とトットちゃんの関係よりもクラスメイトの一人である、小児麻痺のハンディを持つ泰明ちゃんとトットちゃんとの関係がメインになっている。
原作にはないエピソードもかなり挿入されているので、そういう意味では原作のテーマがぼやけてしまっている…とも言えるかも知れないですが、映画版は映画版で非常にドラマチックにまとめられていると感じました。
トットちゃんは泰明ちゃんとの関係の中で人との付き合い方や努力、生命の大切さを学び、小林先生はそんなトットちゃん達の成長を優しく見守り続ける。やがてトットちゃんは戦争を通じて社会や、人としてのあり方を考えるようになる。
そのテーマを表しているのではないかと思うのが、劇中に出てくる、泰明ちゃんが貸してくれた本「アンクル・トムの小屋」をトットちゃんのお父さんが読み聞かせてくれるシーン。
ベッドに入ったトットちゃんに、パパが『アンクル・トムス・ケビン』を読み聞かせてくれた。
(中略)
『いや、いや、いや。わしの霊魂は旦那様のものではねえだ。買わしゃりはしねえだ、買わしゃるわけにはいけねえだ。』パパの声が、うっすら聞こえている。
講談社刊 「映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック」より
トットちゃんの、泰明ちゃんの霊魂は誰のものでもなく…、トットちゃんは自分で、自分の心に従う事を決める。
五年生になったトットちゃんは将来、トモエ学園の先生になることを小林先生に誓う。
「みんなのために、たくさんご本を読んであげる」ために、先生になるという。
この理由や、その後の小林先生のリアクションそのものは原作にはないシーンなのですが、しかし、社会の激動の中で成長していくトットちゃんの姿が本作のテーマの一つなのだろうと思いました。
これもまた原作である「窓ぎわのトットちゃん」の持つ重要なテーマであり、私が感じた人間の残酷さというものを克服する一つの答えを示しているのだろうと気付かされました。
改めて、黒柳徹子さんの持つ豊かな個性、感性の鋭敏さ、行動力の凄さというものを思い知らされました。
その黒柳徹子さんが訴えている事を、トットちゃんや、この映画に込めているメッセージ、これまでのユニセフの活動等、それを通して私は深く深く考えたいと思いました。
とりもなおさず、「わしの霊魂は誰のものではねえだ」と言い切れるようになるために…、なれるのか?などと思いつつ、そう考えます。
今も戦争や、それにまつわるキナ臭さが絶えない昨今、小さいお子様にもオススメ映画作品ではないでしょうか。
引用画像は 講談社刊 「映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック」より
全部が全部ではないのですが、微妙に映画の重要なシーンがカットされているのはやや不満が残るところ。映画の封切り前に発売されているせいでしょうか。小さいお子様への読み聞かせには良いかも。