ケンイチ探偵 感想倶楽部
  • HOME
  • 全ての投稿記事
2023年7月16日 0
感想記事, 日々の感想, 映画の感想, 映画の雑感日記

殺し合い奪い合う、火の海の世界の中でのともだち。『君たちはどう生きるか』【映画の雑感日記】

殺し合い奪い合う、火の海の世界の中でのともだち。『君たちはどう生きるか』【映画の雑感日記】
2023年7月16日 0
感想記事, 日々の感想, 映画の感想, 映画の雑感日記
ホーム » 感想記事 » 日々の感想 » 映画の雑感日記 » 殺し合い奪い合う、火の海の世界の中でのともだち。『君たちはどう生きるか』【映画の雑感日記】
2023年7月14日より全国公開

映画『君たちはどう生きるか』の感想

都内某所、公開日に鑑賞しました。予告編などの情報は何もないし、どんなお話なのかと興味津々で観ました。

太平洋戦争の渦中、空襲で母親の久子を亡くした眞人少年。お父さんの再婚相手である夏子さんの実家(夏子は死んだ久子の妹)に疎開する。夏子さんの実家の敷地には、かつての当主である大叔父が建て、その後その塔内で行方不明になったといういわくつきの不思議な塔がある。(この塔の由来が、この物語の重要なキーになるのですが…)眞人くんはこの塔から「下の世界」とされる異世界へと迷い込み、世界の成り立ち、命の成り立ちを知る不思議な冒険へと旅立つ、という…やや幻想文学的なお話でした。

要は眞人くんが夏子さんを受け入れられるのかどうなのか、その過程で知るこの世界の根源的な姿…、そこが重要なポイントなのかと思いますが、しかし、メッセージ性は非常に強く、娯楽性にはやや乏しいのかも。
描写はかなり説明不足の感もあり眞人くんの心情の変化や成長という面も分かりづらい。作画はほんの少し、微妙に甘く見える部分もありましたし、展開や舞台の世界観は「ハウルの動く城」以上にシュールな感じ。宮崎駿的世界観というのか、永劫回帰的生命観とでもいうのか、それらをテーマにした「鏡の国のアリス」のようでもありました。
もしくは、「風の谷のナウシカ」漫画版の終盤で、地球や宇宙という大自然の中での人類の在りようについて、不思議空間であるシュワの庭(正式名称良く知りません)の主とナウシカとの間で壮絶な問答が延々と繰り広げられましたが、あの描写や雰囲気を想起させられるものがありました。

『風の谷のナウシカ』7巻より

かつてのトトロやラピュタといった作品の娯楽としての華々しさや、わかりやすさ、キャッチーさに比べれば、その取っ付き辛さというものは凄まじいレベルではないかと思いますが、しかし、子供向け作品でありながら、観客の簡単な共感を拒むような作品をあの宮崎駿監督が作ったという事が非常に、非常に強く印象に残りました。

『風の谷のナウシカ』7巻より

ナウシカは、腐海という汚濁とともに生きる人間の生命を「闇の中のまたたく光」と言いましたが、均衡を保つことが幸福や平和を導くのではない。戦争という「悪意」の闇の中でも自分の瞬く光ともなる「ともだち」を見失わずにいてほしい、そんな宮崎駿監督の未来を担う子ども達への気持ちというものは痛いほど伝わってきました。

人間は、人間同志、地球を包んでしまうような網目をつくりあげたとはいえ、そのつながりは、まだまだ本当に人間らしい関係になっているとはいえない。だから、これほど人類が進歩しながら、人間同志の争いが、いまだに絶えないんだ。

だが、コペル君、人間は、いうまでもなく、人間らしくなくっちゃあいけない。人間が人間らしくない関係の中にいるなんて、残念なことなんだ。たとえ「赤の他人」の間にだって、ちゃんと人間らしい関係を打ちたててゆくのが本当だ。

では、本当に人間らしい関係とは、どういう関係だろう。
――君のお母さんは、君のために何かしても、その報酬を欲しがりはしないね。君のためにつくしているということが、そのままお母さんの喜びだ。君にしても、仲のいい友だちに何かしてあげられれば、それだけで、もう十分うれしいじゃないか。人間が人間同志、お互いに、好意をつくし、それを喜びとしているほど美しいことは、ほかにありはしない。そして、それが本当に人間らしい人間関係だと、――コペル君、君はそう思わないかしら。

吉野源三郎著 『君たちはどう生きるか』より

――かように、内容は濃いしキャストはオールスターキャストですし、過去のジブリ作品のオマージュ…は、無いかな?
やはり一度見ただけでは、この世界観は把握しきれそうにない。もう一度見に行こうかなとも思います。

引用作品

徳間書店刊 ANIMAGE COMICS ワイド版『風の谷のナウシカ』7巻
岩波文庫刊 吉野源三郎著 『君たちはどう生きるか』

スタジオジブリ 吉野源三郎 君たちはどう生きるか 宮崎駿 風の谷のナウシカ

前の記事タイムパラドックスものの名作 藤子F短編作品「自分会議」レビュー【漫画本レビュー】次の記事 俺たちの戦いはこれからだ! 映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」レビュー

コメントを残す コメントをキャンセル

コメントを投稿するにはログインしてください。

最近の投稿

  • つくば万博訪問記① 当時の思い出とつくば市の今【マイ聖地探訪の旅】 2025年9月23日
  • そう、そうです。共生の、感動的恋物語です!映画『ChaO』見ました【映画の雑感】 2025年9月4日
  • 見て実感 日本のアニメーション発展の歴史「高畑勲展」観覧記【日々の感想】 2025年8月27日
  • 松本零士ダンジョンへ行きました「松本零士展 創作の旅路」観覧記【日々の感想】 2025年8月7日
  • 火の鳥見開き生原稿で実感する〝偉人〟手塚治虫が描く魔法。その精髄を考える【日々の感想】 2025年7月18日
  • 「TAMIYA プラモデルファクトリー」で伝説のF1マシンTyrrell P34を愛でる 2025年7月4日
  • 上野の森美術館「五大浮世絵師展」で思う、JAPANの存立と文化立国【日々の感想】 2025年6月25日
  • 破滅の海を仲間と共に。新たな再生の道 映画『Flow』鑑賞記【映画レビュー】 2025年4月15日

カテゴリー

アーカイブ

タグ

21エモン GUNDAM FACTORY YOKOHAMA SF THE GUNDAM BASE YOKOHAMA Satellite この世界の片隅に ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10… オナベ ガンプラ ククルス・ドアンの島 サンシャインシティ サンシャインシティ噴水広場 スタジオジブリ スパイダーマン チンプイ トモエ学園 パペットアニメーション ピノッキオの冒険 プラモデル マーベル ミミック メイドインアビス メイドインアビス烈日の黄金郷 モンガー 人造人間キカイダー 動くガンダム 吾峠呼世晴 宇宙戦艦ヤマト 安彦良和 宮崎駿 小林宗作 新海誠 星を追う子ども 東日本大震災 桜 機動戦士ガンダム 池袋 窓ぎわのトットちゃん 葬送のフリーレン 葬送のフリーレン展 ─冒険の終わりから始まる物語─ 藤子・F・不二雄 藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版> 藤子・F・不二雄大全集 藤子不二雄 鬼滅の刃 黒柳徹子
ケンイチ探偵 感想俱楽部
HOME | お問い合わせ | プライバシーポリシー

このサイトについて

世の中知らないことだらけ。
そんなケン一が、探偵となって世界の読み物、映画、出来事を調査・レビューする感想ブログであります。

キャラ紹介

サイト内検索

カテゴリー

最近の投稿

  • つくば万博訪問記① 当時の思い出とつくば市の今【マイ聖地探訪の旅】
  • そう、そうです。共生の、感動的恋物語です!映画『ChaO』見ました【映画の雑感】
  • 見て実感 日本のアニメーション発展の歴史「高畑勲展」観覧記【日々の感想】
  • 松本零士ダンジョンへ行きました「松本零士展 創作の旅路」観覧記【日々の感想】
  • 火の鳥見開き生原稿で実感する〝偉人〟手塚治虫が描く魔法。その精髄を考える【日々の感想】

各お部屋メニュー

  • アニメの感想
  • プライバシーポリシー
  • 全ての投稿記事
  • 問い合わせフォーム
  • 折々のせりふ
  • 映画の感想
  • 漫画の感想
  • HOME
上にスクロール