映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」レビュー【映画レビュー】
2023年6月16日公開 映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」のレビューです。
作画・グラフィック
前作の「スパイダーマン:スパイダーバース」は、中間色をトーンのようなドットで表現したり、吹き出しでセリフを表現したり、アメコミチック・印刷物チックな2Ⅾ感をそのまま3ⅮCGに昇華したような作画・グラフィックが凄かった。
今作はそのアメコミっぽさは維持されつつも、各アースでのデザインの差別化、アートっぽさが強調されているような印象を受けました。
アース928ヌエバ・ヨークの「ブレードランナー」のような迫力と未来都市の美しさ、アース50101ムンバッタンの猥雑な美しさ、そして何といってもグウェン・ステイシーの世界であるアース65は印象派絵画のような色使い。その複雑微妙なペイントで表現されるニューヨークの美しさはある意味、高畑勲監督の「かぐや姫の伝説」に匹敵する視覚芸術なのではないか…!と思うほど。
アクションシーンも凄かった。
ハリウッド映画おなじみと言ってもいいような、ジェットコースターに乗っているが如き躍動感。ウェブシューターであっちこっちに飛ぶスピーディさはスパイダーマンならでは。4D上映にはもってこい。
ストーリー
なんだか前作以上にマイルスやグウェンの家族関係や、抱えている悩みの描写が丁寧で展開がゆっくりだな~…、でも、後半になってかつての仲間も揃い、舞台は整って盛り上がってきた!かなりマイルスは追い詰められてたけど、ここで一挙に大逆転のクライマックスとなれば、これは素晴らしいシナリオ、大名作となりそう!…と思って見ていたら「次回に続く」で終わりビックリ。
前後編の二部作とは知らずに見ていました。
この盛り上がりがリセットになるのか?とも思いましたが…、ただ、今作はマイルスよりもグウェンが主役の物語なのかなと思いました。
前作では「友達は作らない」と公言する強い女性、クールなヒロインという感じだったグウェンが、今作は「友達は作らない」というよりは「作れない」というぼっち感、常に父親とケンカ腰でしか話が出来ない危うさや不安定さ、居場所を持てないグウェンの本当の姿がクローズアップされている、という感じ。
グウェンの変化や成長が、マイルスが持っている「居場所」との対比の中でストーリーのもう一つの軸として描かれ、まさに「アクロス・ザ・スパイダーバース」真の主役はグウェン。ラストで描かれるグウェンの決意、カタルシス、という意味ではちゃんとまとまっているのだな〜とも思いました。
テーマ・設定
前作で強調されていた「誰でもヒーローになれる」というテーマ、そのためには飛び立つ勇気を持つだけで良い。そのための勇気をどう持つのかが描かれていたのが「スパイダーマン:スパイダーバース」とすれば、今作は「居場所」、もしくは「運命」の物語?…と思いました。
居場所は家族との絆、人としての尊厳や存在意義を確かめる場とも言える。その居場所を脅かすのが「運命」。
各スパイダーマン作品での定番、お約束の運命と言えるのが〝肉親or恋人との死別〟というストーリー展開。この「運命」に抗うのか、受け入れるのかという究極の選択が本作での最大のテーマ。
マイルスには父親の死という運命が待ち構えており、その運命・歴史を変えてしまうことは時空の不安定化や崩壊を招くのだとか…。「カノンイベント」と名付けられていましたが、しかしよくまぁ色々とマイルスを追い詰める設定を考えるもんだと、なんだか感心してしまいました。
他にも『マルチバース』とか『スパイダーソサエティ』とか、マイルスがスパイダーマンになった経緯も明らかになる。いずれも、マイルスの存在意義を根底から揺さぶるようなものばっかり。
前作もマイルスのプライドをズタズタにするような展開でしたけど、今作はさらにひどい。
マルチバース世界の安定を守るため、居場所を失ってでも運命に従うべきなのか。
いや、人間の理性や尊厳を無視して守る平和は間違っている。人として生きる場を作り出すために運命を超越する。
その先にはどんな世界が待っているのか。「アンタも入る?」というグウェンの決意とともに、次回作ではどんな場所が作り出されるのか、なんだかんだで楽しみです。
声優・ヴィラン
吹替版、字幕版両方を見ましたが、字幕版での声優さんの演技は、キャラのリアリティを重視しているようにも見えました。
グウェンはやや不安定な感じの声優さんの演技。悪魔超人のブラックホールか、ペプシマンのような見た目のヴィラン、スポットはオタクっぽいビクビク、オドオドした演技。マイルスはちょっと成長して大人びた感じになっているような。
対して吹替え版はキャラクターのイメージに忠実な感じ。グウェン役の悠木碧さんの演技は凄くオトナっぽく、安定している。マイルス(CV:小野賢章)は若々しく、スポットはかなり余裕をかましまくりで、飄々としてオドオド感はなし。どちらを見るかで若干印象は変わる?かも。
でも、どちらの解釈も正解のような気もします。
アースについて
前作で初めてMARVELコミックでの「マーベル・ユニバース」なる設定の存在を知りました。マーベルの各作品、派生した作品世界それぞれ全てに公式、非公式も含めてナンバリングされている「アース」という世界設定が存在するという…。これまた、ここまでシステム化出来る統一された世界観、なおかつ裾野の広さというものはビックリするほか無い、という気もします。
ただ、この「Earth」はマーベル作品を読み込んでいる人でないとキチンと把握できないのではないでしょうか。情報も少ないので私にはややこしくて全容が良くわかりません。
とりあえず私の知りうる範囲での情報を表にしてみました。
正確性は保証できませんのであしからず…。
ユニバース | |
---|---|
Earth-1610 | マイルズ・モラレスが主役として活躍する作品「Spider-Man」は「アルティメット・ユニバース」のひとつ…らしい。(「アルティメット・ユニバース」については下記) |
Earth-65 | 「Spider-Gwen」の世界。グウェン・ステイシーがスパイダーマンになっている世界。 |
Earth-14512 | スパイダーマン型パワードスーツ〝SP//dr〟(スパイダー)を操る日系人少女ペニーパーカーの世界。 |
Earth-8311 | マーベルキャラを動物化したパロディ世界(Larval Earth)。ここに住んでいるのがスパイダーハム(Spider-Ham)ことピーター・ポーカー(Peter Poker)。 |
Earth-90214 | 1930年代のアメリカを舞台にしたシリーズ「スパイダーマン・ノワール」(Spider-Man Noir)の世界。 |
Earth-50101 | インドのスパイダーマン、パヴィトル・プラバカール(Pavitr Prabhakar)が活躍する作品「スパイダーマン:インディア」(Spider-Man: India)の世界。 |
Earth-928 | 2099年を舞台にした作品「スパイダーマン2099」の主人公ミゲル・オハラの住む世界。 |
Earth-138 | スパイダーパンク(Spider-Punk)ことホービー・ブラウンの住む世界。 |
Earth-70019 | 1969年から『月刊別冊少年マガジン』で連載された、池上遼一作画・平井和正原作による翻案漫画「スパイダーマン」の世界。 |
Earth-51778 | 1978年に日本の東映が製作した実写特撮テレビシリーズ「スパイダーマン」の世界。 |
Earth-7041 | 2004年から『コミックボンボン』において連載された山中あきら氏の漫画作品「スパイダーマンJ」の世界。 |
このほかにも、1979年に東映とマーベルの合作によって制作された、東映特撮版アベンジャーズとも言えるスーパー戦隊シリーズ「バトルフィーバーJ」も「Earth-79203」とナンバリングされている。
ただ、上記のアースはマーベルの公式設定ではないらしい。
公式設定ではないらしいけれども…、「アクロス・ザ・スパイダーバース」の作中ではスパイダー・インディアのアースのナンバーが出ていたし…、どういう位置づけなんだ?
一応、以下の七つがメインユニバースと設定されているらしいのですが…、表にまとめておきます。
ユニバース | |
---|---|
Earth-616 | マーベルコミックでの正史の世界。 |
Earth-1610 | 「アルティメット・ユニバース」(2000年を機に、過去のマーベル作品のリブート作を展開するためにつくられたユニバース) |
Earth-712 | スーパーヒーローチームである「スコードロン・スプリーム」の世界。 |
Earth-10005 | 映画「X-MEN」の世界。 (オリジナル・X-MENシネマティックユニバース) |
Earth-12041 | ディズニー専門チャンネル「ディズニーXD」内のマーベル作品の世界。 |
Earth-91274 | コミック版「トランスフォーマー」の世界。 |
Earth-199999 | 映画「アベンジャーズ」の世界。 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU) |
引用画像は「『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ファイナル予告 6月16日(金)全国の映画館で公開」「『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』 <スパイダーマン・インディア> 6月16日(金)全国の映画館で公開」 いずれもYouTube「ソニー・ピクチャーズ 映画」チャンネルより