注意:若干ネタバレあります
藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿 に収録されている「わが子・スーパーマン」の感想。
10「わが子・スーパーマン」の感想
小学館ビッグコミック1972年3月10日号掲載作品。
「スーパーさん」「カイケツ小池さん」に続くスーパーマンものの三作目。
「カイケツ小池さん」では正義感の曖昧な人間が力を持つとどうなるかがコミカルに描かれていました。力を使う事と社会の関係を描いていたのが「スーパーさん」であるとすると、スーパーマンものの三作目にあたる「わが子・スーパーマン」は、この二つのテーマが合わさりより深く、「力」を持つという意味が人類という種族のレベルまで拡げられ、よりゾッとする作品になっているのではなかろうかと思います。
「わが子・スーパーマン」あらすじ
外で元気に遊ぶ小学生タダシくん、そのタダシくんのパパには気がかりなことがひとつありました。
最近、近所で頻発する通り魔事件。
その事件が起きる時には必ずタダシくんが外に遊びに出ている事。
でも、タダシくんは特撮ヒーローのウルトラファイターが大好きな無邪気な子供。
大人に傷害を与えるなど考えられない、しかし…。
色々な状況を考慮すると、どんどんタダシくんが犯人ではないかと思えてくる。
ついにパパは、有力な証拠を発見する。
様々な状況証拠をならべ、パパはタダシくんを追求する。
するとタダシくんは、ついに真相を喋り始める。
タダシくんは超常の力を得たミュータントだった。
さらに、たまたまウルトラファイターファンの友達から聞き出した悪役ゾンビー俳優の住所の情報をもとに、明日ゾンビーを倒しに行くとまで言い出すタダシくん。そんなタダシくんにパパはウルトラファイターのマネなどやめるよう諭すが、パパを悪者の手先ではないかと疑い聞き入れない。
もはや正体を隠すのも放棄したかのごとく、ミュータント戦士タダシくんはゾンビーを倒すため寝室を飛び出すのでした。
さあ、ゾンビー、タダシくんの運命やいかに…というお話。
力が欲しいか!
タダシくんの正義感そのものは正しい。
ただし、言うまでもなく、己の正義感のみを根拠として他者に制裁を加える権利はない。
決定的に欠けているのは、相手の人間性を尊重する視点。スーパーマンとしての正義感を充足させるためだけの手段として他者を扱っているとも言える。
しかし、タダシ君はホモ・サピエンスではないミュータントであり人類では対抗出来ないような超越的な力を持っているとすると…、人間の法律や道徳に従う義務は無いかもしれない。
そういう存在が現れた時、一方的な正義を押し付け、それに従わない人間に危害を加える事も厭わない強大な力が現れた時どうするか。権力を持った独裁者などが相手であれば抵抗運動やデモ活動など合法的に対抗する手段そのものは色々あるのかもしれないけれども、法や道徳で裁くこともできない超越的な力を持った存在が相手であれば…。
タダシくんパパの同僚は、早期に排除するしかないと言う。
しかし、本人には悪気も悪意もない。
しかも子供。
どうすればいいのでしょうか。
「力が欲しい!」という願望は誰しもが持つ願い。
しかし力を得たとしても、そういう〝自由″を行使する力はまた別のものである、という事が一連のスーパーマンもの作品に共通するテーマだと強く感じます。
自由を使いこなす「力」とは…タダシくんパパも言っていましたが、すなわち正義、哲学、道徳、そんな理念が社会全体に通念として確立されれば、人は自由を使いこなす事が出来るのでしょうか。
必ずしもそれだけではない気もしますが…、結局のところそういう理念が通じない力が誕生した場合、大友克洋氏の『AKIRA』のように凍結するしかないのか。
そう、『SF』として考えるならその力は、それは人類の進化、幼年期の終わりであり、人類は神の領域たるオーバーマインドに近づくための捨て石になるべきであり………。
ともかく、そういう葛藤の中でも答えは出そうにない、考えがエスカレートすると結論も論点も良くわからなくなってくる難しいテーマではあります。
「我が子・スーパーマン」もまた、結論はハッキリとしないままストーリーは終わる。
作品としては、さあこのテーマはこれからどういう展開をするのか、ということが楽しみになる過渡的作品とも言えます。
引用画像はすべて「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>」より
「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿」について
藤子・F・不二雄のSF短編112話を全8巻に完全収録した“PERFECT版”が登場! 鋭い風刺精神を存分に発揮した「藤子美学の世界」にどっぷり浸かれる作品集!
Amazon.co.jp商品説明より
藤子・F・不二雄氏による短編の総集編。第一巻は1968年の「少女コミック」9月号に掲載された『スーパーさん』から1973年「ビッグコミック」4月10日号に掲載された『イヤなイヤなイヤな奴』までを年代順に収録。
巻末には藤子・F・不二雄氏の長女である藤本匡美さんによるエッセイ「こっそり愛読した父の作品」が掲載されています。
タイトル | 雑誌名 | 年月号 |
---|---|---|
スーパーさん | 少女コミック | 1968年9月号 |
ミノタウロスの皿 | ビッグコミック | 1969年10月10日号 |
ぼくの口ボット | 子供の光 | 1970年1月号 |
カイケツ小池さん | ビッグコミック | 1970年4月25日号 |
ボノム=底ぬけさん= | ビッグコミック | 1970年10月10日号 |
ドジ田ドジ郎の幸運 | SFマガジン | 1970年11月 増刊号 |
じじぬき | ビッグコミック | 1970年12月25日号 |
ヒョンヒョロ | SFマガジン | 1971年10月 増刊号 |
自分会議 | SFマガジン | 1972年2月号 |
わが子・スーパーマン | ビッグコミック | 1972年3月10日号 |
気楽に殺ろうよ | ビッグコミック | 1972年5月10日号 |
アチタが見える | ビッグコミック | 1972年8月25日号 |
換身 | SFマガジン | 1972年9月 増刊号 |
劇画・オバQ | ビッグコミック | 1973年2月25日号 |
イヤなイヤなイヤな奴 | ビッグコミック | 1973年4月10日号 |