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2024年11月25日 0
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大事なのは〝あいつとおれ〟 藤子F短編作品「換身」【漫画本レビュー】

大事なのは〝あいつとおれ〟 藤子F短編作品「換身」【漫画本レビュー】
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注意:ネタバレあります

藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿 に掲載されている「換身」の感想。

13「換身」の感想

SFマガジン1972年9月増刊号に掲載された作品。

ちょっと視点を変えてみる。
ちょっとした変化、異分子の登場で起こるハレーション。
これらをテーマにした作品が多いのが藤子不二雄作品の特徴。
藤子F短編作品の「ヒョンヒョロ」などは、その特徴がかなりハッキリ出ている作品ではないでしょうか。

1971年「ヒョンヒョロ」より

この「換身」は、同じく『視点を変えてみる』というテーマでありながらもさらにさらに、藤子F作品ならではの視点の変化で、よりテーマが深くなっているようにも思えます。

「換身」あらすじ

主人公は結婚を間近に控えた海野五郎氏。
婚約者の森山みどりさんとのデートの待ち合わせ中、現れる怪しげな2人組。

この2人はヤクザ。親分の命令で五郎さんをさらったのでした。
何故五郎さんの身柄が必要だったのか。

それは、怪しげな科学者魔土災炎博士の開発した人間の人格を物質化する薬を使い、親分自らが海野五郎となって極道世界から足を洗い、カタギとして人生をやり直すためなのでした。

見事換身に成功した親分は、五郎となってみどりさんとのデートに向かうが、あまりにもこれまでとは違う五郎の物腰にみどりさんは戸惑ってしまう。

そこへ、暴力団の親分になった五郎が現れ、みどりさんは真実を知る。
ところが、親分の人格が変わってしまった事を知らない子分たちとのドタバタの中で、再び五郎の人格が離脱してしまい、今度はみどりさんと人格が入れ替わってしまう。

親分・五郎・みどり、全員の人格が入れ替わってしまったが、この事態を打開するには五郎に成り代わった親分を捕まえて元に戻させるしかない。

しかし親分は綿密に策を練っていたのでした。

大ピンチに陥ったみどりさんでしたが、必死の抵抗によって奇跡的に換身が起こり親分は地の底へ、みどりさんは助かったのでした。

とは言え、そこでハッピーエンドとはいかない。五郎になってしまったみどりさんと、みどりさんになってしまった五郎。二人の人格を元に戻さなければならないが…

上手くできない。
ではどうするのか。

果たして二人が選んだ結論は…。

というお話。

「おれがあいつであいつがおれで」

『ちょっと視点を変えてみる』、と同時に『もしも人生をやり直せれば』、という藤子F作品にはよくあるモチーフの作品ですが、ドタバタ喜劇的なストーリーでアクションシーンがとても多い。読みやすく、銃撃シーンなどもあっても、決してリアリティを追求する方向には行かないのは、初期のSF短編に共通する特徴。

そして、F先生はオカルトにも造詣が深そうなのは、いかにも、といった感があります。

さらに、この作品のもうひとつの魅力は、ジャンルが〝人格入れ替わりもの〟であるという点でしょうか。

代表的なアニメ作品「君の名は。」の大ヒットは2016年。そこからさらに淵源をたどると、このジャンルが大きく認知されるきっかけになったといえるのが大林宣彦監督の映画「転校生」(1982年)。

転校生 [DVD] 監督 : ‎大林宣彦 出演 ‏: ‎小林聡美 尾美としのり 佐藤充 樹木希林 宍戸錠
画像は松竹株式会社ホームページより

そしてその原作である山中亘さんの児童小説「おれがあいつであいつがおれで」。

山中恒 作 角川つばさ文庫刊
画像はAmazon.co.jpより

一夫と一美が入れかわっちゃった!? 男女逆転ストーリーの決定版っ☆
お地蔵さまの前でぶつかった日から、中身が入れかわってしまった一夫と一美。しかたなく、一夫は女子の、一美は男子の生活を始めたんだけど、これがもう大変!! しかも一美のボーイフレンドが家にくることになって!?

Amazon.co.jp 「おれがあいつであいつがおれで」商品説明より

「おれが〜」が連載小説として初掲載されたのは学年誌「小6時代」の1979年4月号、「換身」は1972年9月増刊号のSFマガジンですから、「おれが~」を遡る事約7年まえに入れ替わりものの先駆けとして「換身」が描かれていたのはスゴイ事。

「そんなに、男になるって、いやなことなのかなあ」
おれは、思わず、ひとりごとをいった。とたんに、一美に切りかえされた。
「あんたは、どうなの?女になれて、うれしい?おしゃれができて、楽しい?」
おれは、ことばにつまってしまった。そして、そのあとは、だまりこくって、あるいた。

「おれがあいつであいつがおれで」より

「おれが〜」はジェンダー、他者とのギャップ、その意味を文字通り相手の立場になった上で考える、思春期に差しかかろうとする少年少女の成長を描いた名作ですが、「換身」はそれとはちょっと違う。そういう〝成長〟とか、〝瑞々しさ〟とか、〝多様性〟とか、普遍的なテーマには向かわない。

「換身」にもジェネレーションギャップやジェンダーギャップなど様々なギャップが出て来ますが、それは常識・価値観に囚われるバカバカしさを笑うため。

それが藤子F作品の特徴ですが、この「換身」のラストではそこからさらに、入れ替わってしまった人格・立場をそのまま受け入れてしまうという展開で終わっている。そこまでテーマが発展しているのが、本作のユニークなところなのではないでしょうか。

もしも「転校生」「君の名は。」のラストが、二人とも元には戻らないラストであれば…。想像してみると、ちょっと凄いことではないか?とも思います。

常識も価値観もまた諸行無常。それどころか、自分自身のルーツやポリシーが突然に、例えばいままで嫌悪していた、敵対していたものに変わったとしても、それを受け入れてもいいんじゃない?

1972年 「気楽に殺ろうよ」より

価値観の相対化といえるものが、究極レベルまで到達。それでも人は生きていける…と主張しているようにも見える。

それぐらい人間はいい加減な存在であり、それはすなわち、社会に諸々の価値観の相克や分断というものがあっても、一歩引いて見てみればそれがいかに阿保らしいことか。一夜にして逆転してしまうかもしれない常識や価値観を元に、他者を差別したり偏見を持ったり、正義とされるものを信じて思考停止するという光景は喜劇と云う以外にないのではないか。

どうしようもなく世界はあやふやで移ろいやすい。そこでの確かなものとは?

このテーマはこの後も藤子F作品の世界の中で発展して行く、そんな作品ではないかと思います。

引用画像はすべて「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>」より


「藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿」について

藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)ミノタウロスの皿

藤子・F・不二雄のSF短編112話を全8巻に完全収録した“PERFECT版”が登場! 鋭い風刺精神を存分に発揮した「藤子美学の世界」にどっぷり浸かれる作品集!

Amazon.co.jp商品説明より

藤子・F・不二雄氏による短編の総集編。第一巻は1968年の「少女コミック」9月号に掲載された『スーパーさん』から1973年「ビッグコミック」4月10日号に掲載された『イヤなイヤなイヤな奴』までを年代順に収録。

巻末には藤子・F・不二雄氏の長女である藤本匡美さんによるエッセイ「こっそり愛読した父の作品」が掲載されています。

タイトル雑誌名年月号
スーパーさん少女コミック1968年9月号
ミノタウロスの皿ビッグコミック1969年10月10日号
ぼくの口ボット子供の光1970年1月号
カイケツ小池さんビッグコミック1970年4月25日号
ボノム=底ぬけさん=ビッグコミック1970年10月10日号
ドジ田ドジ郎の幸運SFマガジン1970年11月 増刊号
じじぬきビッグコミック1970年12月25日号
ヒョンヒョロSFマガジン1971年10月 増刊号
自分会議SFマガジン1972年2月号
わが子・スーパーマンビッグコミック1972年3月10日号
気楽に殺ろうよビッグコミック1972年5月10日号
アチタが見えるビッグコミック1972年8月25日号
換身SFマガジン1972年9月 増刊号
劇画・オバQビッグコミック1973年2月25日号
イヤなイヤなイヤな奴ビッグコミック1973年4月10日号
藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>(1)
筆者藤子・F・不二雄
発売日2000年07月25日
発行所株式会社 小学館
総ページ数362ページ
判型A5判 148✕210
ISBN-104091762018
ISBN-13978-4091762016
定価本体 1,980円(税込)
2022年 4月時点

SF おれがあいつであいつがおれで 換身 藤子・F・不二雄 藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版> 転校生

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